戦争プロパガンダ

「戦争プロパガンダ10の法則」を心理学から説明

「戦争プロパガンダ10の法則」(2002 アンヌ・モレリ 永田千奈訳)を紹介します。

戦争当時国がメディアと手を組んで、人々を戦争賛成に誘導する10の法則を説明している本です。

本が刊行されたのは2002年。

あなたはこう思うかもしれません。

これ書かれた20年以上前だよ!
そんなことは科学が解消している

古い問題だとあなたは思うかもしれません。

しかし、人が操られる法則そのものは単純なことが多いのです。

例えば、科学技術が発展した未来を描いた映画「PSYCHO-PASS サイコパス3」。

AIが発展している世界で、テロ犯は公安局ビルを完全に独占しました。

テロ犯は監視システムを乗っ取ることで、地下で捕まっていた犯罪者を解放します。

テロ犯「君たちは自由だ!
ここから逃げ出すことも、とどまることも選択できる。
しかし、とどまればどうせ殺されるだろうね」

このセリフに犯罪者は奮起して武器を手にとります。

もう警察と戦うしか方法はないのだ、と思い込んでしまうのです。

捕まったら殺されるという事実はないにもかかわらず。

自分で選択しているつもりが選ばされてる…

他にも、システムが停止している混乱下、あるエレベーターが一つ作動していました。

警察側「エレベーターが一つ使える!
地下に脱出しよう」

ここでエレベーターに乗ることを選択した人々は、途中でエレベーターの電源を切られて落下してしまいました。

「何かおかしい」

このように疑問に思うことが、命の危機を救うことになったのです。

疑問に思えるかどうか
どんなに科学技術が発達していても、そのことをその時に知っているかどうかが明暗をわけます。
プロパガンダというのもその一つ。
古くて新しい問題「戦争プロパガンダ」について学んでみましょう。
プロパガンダ10個を各章ごとに紹介していくよ

戦争プロパガンダ①戦争否定

戦争を始める直前、必ずといっていいほどあるセリフが登場します。

「われわれは、戦争を望んでいるわけではない」

すべての国家元首や政府がこうした平和への意志を積極的に口にするのです。

これにより敵と味方という構造を作り出し、平和という目標に一致団結させようとします。

心理学から説明すれば、「内集団バイアス」。(心理学用語大全 田中正人 参照)

自分が所属していると自覚している集団を内集団、そうでない集団を外集団と分けます。

内集団バイアス⇒人には内集団に対して好意的な態度をとる傾向がある
(ヘンリ・タジフェル1919-1982)

味方と敵に分かれる構造は、人間の自然な感情かもしれません。

しかし、それをあえて意識することで、偏見や差別に気がつけることができます。

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戦争プロパガンダ②正当化

プロパガンダ②は①の続きです。

ほんとうは平和を願っている。

しかし、相手を抑止するために「やむをえず」参戦する。

このように正当防衛、報復をかかげることによって参戦を正当化します。

戦争が始まったすべての責任を敵国に押しつけるのです。

ルイジ・ストゥルツォによると、戦争とは、自陣営の武力または攻撃速度の優越性を根拠として、早期に確実に勝利できると踏んだ側が仕掛けるものだという。(戦争プロパガンダ10の法則p32)

そして、戦争が始まってしまえば、両国が同じような論理を組み立てます。

ここで言いたいのは、加害者も被害者も同じだということではない。
ただ、敵国状態にある双方が、同じ言葉を用いているという事実を指摘しているだけである。(p46)

つまり、味方も敵も同じようなことをしているのです。

喧嘩で負けたくないときって、理由考えちゃう

戦争プロパガンダ③敵の指導者は悪魔

たとえ敵対状態であって、国全体の人々を憎むことは不可能です。

そのようなときに、敵にひとつの「顔」を与えてその醜さを強調してしまいます。

「敵の指導者は悪魔のような人間だ」

あらゆる手段をつかって、敵の大将を悪魔にしたてあげ、悪人、異常者、野蛮人、凶悪犯罪者、人殺し、狂人、人類の敵、怪物などというレッテルを張ります。

すべての悪は、こいつが原因だ。
戦争の目的は悪者を捕らえることであり、彼が降伏すれば、倫理的かつ文化的な生活が戻ってくるはずだ。(p55)

全体を悪とみなすことが難しい場合に、指導者を悪人にします。

対戦国の個人を見ていけば、友好的に感じられる人はたくさんいるからだね

哲学から言えば、「顔」をみることは良くも悪くも私中心の世界から外の世界へ引き出されます。
>>レヴィナスの「顔」とは

心理学からも見てみましょう。

心理学「初頭効果」

ソロモン・アッシュ(1907-1996年)は初頭効果を唱えました。

初頭効果⇒最初に提示された情報が全体の印象を決定づける現象
例えば、第一印象で悪いイメージを植え付けられると、私たちはそのように印象形成してしまうということです。
第一印象って大事!
イメージを特に植えつける言葉を中心語といいます。
印象が形成される中心語は他の特性を打ち消すどころか、意味を変えてしまうこともあります。
中心語⇒印象が形成される中心的な働きをする言葉
例えば、戦争前は仲良く対談していたにもかかわらず、大戦後は「悪魔」という中心語を使うことによって、そのイメージを植えつけます。
また他にも、ラベリング効果やスティグマといったわかりやすいレッテル張りといった心理学効果でも説明ができます。
わかりやすくイメージしやすい言葉に注意

戦争プロパガンダ④使命感

近代において国民の同意がなければ宣戦布告ができません。

それが民主主義でもあります。
>>民主主義とは

なので、民主主義ではない国家に対しては、「独裁国家から守るのだ」といったような倫理や使命感を持たせるようなプロパガンダも行います。

その国の独立、名誉、自由、国民の生命を護るために戦争が必要であり、この戦争は確固たる倫理観にもとづくものだとなれば、国民の同意を得ることはそう難しくない。(p68)

戦争プロパガンダは戦争の目的を隠して、別の名目にすり替えようとします。

民主主義じゃないと、勝手に核ボタン押されちゃって危ない!とか
しかし、実際は国も利益のために戦います。
多くの場合は経済効果を伴う、地政学的な征服欲があってこそ、戦争が起こる。(p68)
政府は倫理観や正義感をたちあげて他の欲を隠そうとします。

日比谷焼き討ち事件

しかし、民衆はその欲を実は知っているということもあります。
歴史的に見れば、日露戦争後におこった日比谷焼き討ち事件(1905年)。
簡略化して述べます。
日比谷焼き討ち事件⇒日露戦争に日本は勝ったものの、賠償金がなかった。(勝ったと言っても引き分けに近かったから)
賠償金がなかったことに腹を立てた民衆が暴徒と化し、多くの施設が焼き討ちされた事件。

戦争に勝ったにもかかわらず、犠牲者や戦費が支払われなかったことで民衆による反乱がおこった事件です。

戦時中は倫理観に動かされていたとしても、民衆は現実に戻れば、戦争による経済利益をわかっています。

心理学的に人は利益より損を大きく見積もるプロスペクト理論を持っているとも言われるね

戦争プロパガンダ⑤敵国の残虐さ

戦争プロパガンダではしばしば、敵側の残虐さが強調されます。

もちろん、戦争に残虐さはつきものです。

しかし、ここでいうプロパガンダとは敵側だけがこうした残虐行為をおこなっていると主張するのです。

自分たちは国民のためであり、他国の民衆を救うために活動しているのだ、と。

言葉の選択は大きな意味をもつ。
自国の陣営について語るときは、領土の「解放」、「民族の移動」、「墓地」、「情報」という言葉を用いるが、相手の陣営については、同じ事象が「占拠」、「民族浄化」または「大量虐殺」、「死体置き場」、「プロパガンダ」という言葉に置き換えられる。(p109)

例えば、

  • 「手を切断されたベルギーの子供たち」
  • 家が焼かれ、ドイツ兵の手にかかる寸前に助け出された赤ん坊
  • ナイラ証言(1990年)

などなど、メディアは「美談」とする話を捏造していたという事実もあります。

「美談」は話題になりやすい

ただし、現在はこれらの話が嘘だということがバレやすいという一面もあります。

なので、事実しか話さない、という戦略も取られます。

事実しか話さなくても、自国がヒーローになるような話の構成にすることはできるのです。

そのような戒めもこめて、本ではこのように語ります。

どの参戦国にとっても、戦争の根源は暴力であることに変わりはない。ー
戦争に人間味を求めても無駄である。(p111)

「顔」へのレッテルやスティグマは拡張されるということです。

戦争プロパガンダ⑥「非人道的」な兵器や戦略

プロパガンダ⑤は、敵の残虐さを述べました。

それに伴って、敵は卑怯な兵器や戦略を使ってくるということがプロパガンダ⑥になります。

われわれに刃向かう敵は、アンフェアなやり方も辞さない、と述べるのです。

  • 奇襲
  • 善意を裏切る卑劣な行為
  • 一方的な核兵器
  • 毒ガスの使用
  • テロ行為

戦争は多くの場合、技術的な優劣が勝敗を決定するといわれています。

つまり、どこの国も、自分たちが使う可能性のない兵器(または使うことができない兵器)だけを「非人道的」な兵器として非難するのだ。(p124)

本には、大戦中にヒトラー自身が「非人道的」な武器および戦略を制限するよう呼びかけていたようです。

しかし、国連側は「ガス攻撃を受けたら、ガス攻撃で報復する」と拒否したと語られています。

化学兵器、生物兵器、時代によって開発される新兵器…

人は気がつくとその環境にいます。

科学技術の発達によって、「人新世」と呼ばれる世紀に私たちは生きています。

人新世⇒人が地球に影響を与えすぎて地球が病んできた
>>人新世とは
科学技術に関しては戦争だけではなく、地球規模でも議題にしたいことです。

戦争プロパガンダ⑦人は勝利を好む

いったん戦争になってしまえば、人は勝者の立場を好みます。

なので、「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」というプロパガンダがおこるのです。

多数の戦死者が出ていると知れば、戦争を続けるよりも和平を求める声が増えるだろうと考えてのことだ。(p126)

例えば、ベトナム戦争(1955-1975)はメディアに負けた戦争とアメリカで言われているそうです。

戦争にメディアが介入して、実際の映像を流したところ、アメリカ国民は戦争反対を唱えだしました。

報道において戦争の被害が伝えられることによって、人は士気が下がります

そして、実際に米軍をすべて撤退させるにいたったのです。

つまり、強いアメリカが自国の反戦運動から戦争から撤退した

しかし、このことは逆に「アメリカの強さへの信頼」を低下させた事件としてアメリカ全体に広まってしまいました。

経済的な打撃を自分たちで被ってしまったからです。

このことがきっかけになり、民衆は自ら報道を見るのを嫌うようになった一面もあると言います。

そして、ベトナム戦争以後、メディア規制がとられるようになりました。

戦争は経済に関わってくる

パワーエリートとは

20世紀のアメリカは「豊かで、人々が自律的な、理想的な民主主義社会」という自由な正義の国というイメージがあります。

実際はどうなのでしょうか。

社会学者チャールズ・ライト・ミルズ(1916-1962)は、20世紀アメリカの中核となったホワイトカラーの人々を分析しました。

すると、アメリカというのはパワーエリートが連合して権力を握っている国だとわかったのです。

パワーエリート⇒民主主義の背景で、権力を握っている支配層
パワーエリートは軍事・経済・政治を支配し、アメリカ経済をまわします。
なので、パワーエリートが戦争で負担をおえば、それによって成り立つ中間層や労働者にも負担がでてくる構造です。

労働者は戦争に反対しても、戦争で利益を得る構造の中にいます。

それによって、報道そのものを見たくないという気持ちがでてしまうのです。

知れば正義だと言えなくなる構造…

戦争プロパガンダ⑧有名人も戦いを支持

感動は世論を動かす原動力であり、プロパガンダと感動は切っても切り離せません。

なので、感動を呼び起こすことが得意な芸術家や知識人に頼ることになります。

芸能人やアイドル、詩人、作家とか、好きな人が賛成してたら共感しちゃう…

例えば、戦争にはよく哲学者の思想も使われます。

思想全体ではなく、その一部を切り取って戦争の意義に合うように解釈するからです。

アフォリズムとは

その時に気を付けなければいけない一つはアフォリズムです。
>>アフォリズムとは

アフォリズム⇒簡潔鋭利な評言のこと。
格言や警句、金言のことを表し、主に短くまとめた言葉に使われる。

アフォリズムは過去の偉人の言葉を切り取って、端的に伝えられます。

しかし、だからこそ誤解が多いのです。

哲学書は分厚いものが多くあります。

なぜなら、その分量がなければその思想を語りつくせないからです。

メディアでも、そこの部分だけ切り取ればまったく別のこととして解釈されたりしている!

戦争プロパガンダ⑨大義は神聖

大義を神聖なものとすることで、戦争に誘導します。

宗教や信条をかかげることによって、絶対に破られてはいけないものに仕立て上げます。

日本だと宗教によって駆り立てられるイメージないけど…
本では、民主主義、文明、自由、市場経済といった概念も、不可侵の価値をもつものとして、宗教と同様の意味を持つと述べます。
とくに「民主主義」という概念は、あらゆる犠牲を払ってでも守り抜かねばならない神聖なものになった。(p160)
民主主義という宗教…

戦争プロパガンバ⑩裏切り者

歴史で戦争を見ると、このような現象がみられます。

戦争に反対する者は裏切り者だと述べるのです。

戦争プロパガンバに疑問を投げかける者は誰であれ、愛国心が足りないと非難される。
いや、むしろ裏切り者扱いされると言ったほうがいいだろう。(p166)

このようなことが起こるからこそ、「言論の自由」は保証されるべき、という運動につながります。

しかし、戦争下ではさらにそれが厳しくなることも述べられます。

戦争が始まると、もう誰も、公然と戦う理由を尋ねたり、本来の意味を「ねじまげる」ことなく和平を口にしたりすることはできなくなる。
メディアは政治権力と密着した関係にあり、いざとなると本当の意味で意見の多様性を守ることはできないのである。(p179)

平和だから多様性が尊重される

戦争プロパガンダ⑪戦争は繰り返される

戦争プロパガンバの法則には実は11個目があります。

「今度こそこれが本当だ!」

今までの10個がプロパガンダだとしても、今回の戦争は違う、と述べることです。

しかし、同じようなプロパガンダを使う戦争は繰り返されているという事実があります。

二度と騙されるものか、と思っても次も騙される…
では、この法則を破るにはどうしたらいいのでしょうか。
それには、心理学の「同調行動の実験」にヒントがあります。
同調行動の実験⇒明らかに間違っている意見であっても、他人のほとんどが賛同した場合に、自分も間違った意見に同調してしまう実験。
ソロモン・アッシュ(1907-1996)
例えば、明らかに長い線なのに、みんなが短いと言うことで本当に短く見えてくる
これはプロパガンダの理論でもあります。
間違っていても、みんなが賛同しているから本当のことに思えて賛同しているのです。
しかし、この実験には希望もあります。
だれか一人でも被験者の番が来る前に正しい意見が出ていたならば、被験者は正しい答えを言う確率がぐんと上がるのです。
みんなが同じ意見ということが同調をうみだします。
他にもあります。
少数派の意見が多数派に影響を及ぼすことをマイノリティ・インフルエンスと言います。
マイノリティ・インフルエンス⇒少数派が信念を持って意見を発信していると、多数者が集団圧力ではなく自分の意志で少数意見に賛成すること。
(セルジュ・モスコヴィッシ 1925-2014)
あなたが知識をつけるだけでも効果があります。

戦争プロパガンダまとめ

自分は大丈夫。

そう思うかもしれませんが、そのような人のほうが詐欺に合いやすいともいわれています。
(心理学でいえば、確証バイアス、エコーチェンバー)

自分の身を護るため、意図せず利用されないためにも、プロパガンダは理解しておく必要があります。

戦争プロパガンバ10の法則

  1. われわれは戦争をしたくない
  2. しかし、敵が一方的に戦争を望んだ
  3. 敵の指導者は悪魔のような人間だ
  4. われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な指令のために戦う
  5. われわれも誤って犠牲を出すが、敵はわざと残虐行為におよんでいる
  6. 敵は卑劣な兵器や戦略を使う
  7. われわれの被害は小さいが、敵に与えた被害は甚大
  8. 有名人も正義の戦いを支持している
  9. われわれの大義は神聖だ
  10. この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である

この法則は、「戦争プロパガンダ10の法則」の章ごとの題名になっています。

ここでは目次を引用しました。

法則をつなげてみると、どこかで聞いたような演説になってきます。

聞いたことある演説だなって思ったら、注意が必要なんだね
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