死因の人類史

「死因の人類史」と技術の進歩|高校倫理2章1節4

このブログの目的は、倫理を身近なものにすることです。
(高校倫理 新訂版 平成29年検定済み 実教出版株式会社)を教科書としてベースにしています。
今回は
高校倫理第2章「現代の諸課題と倫理」
第1節「生命の倫理」
4.「死因の人類史」と技術の進歩
を扱っていきます。
今回は生命倫理における「バイオテクノロジーの進歩」と「再生医療」を中心に見て、そこから『死因の人類史』を紹介していきます。
生命倫理(バイオエシックス)⇒人間の生命が技術的操作の対象になったことで生じた、生命の誕生や死に人間はどこまで介入していいのかを問う研究分野
まずは倫理の教科書にそって用語と現状をざっと見ていきます。
DNAの二重らせん構造の発見以降、生命や遺伝のしくみを解明する研究が進みました。
この発見が最初に応用されたのはバイオテクノロジーです。
  • バイオテクノロジー(生命工学)⇒生物の持つ能力を利用して、人間社会に役立つものを作る技術のこと。
    微生物や動植物の遺伝子の構造が解明されることにより、人間がこれらの遺伝子を操作し、医療・食品・農業などの分野で役立てることが可能になった。
    人の持つ遺伝情報(ヒトゲノム)を解析する研究が進んだ結果、その一部は医療現場で応用されている。
    テーラーメイド医療(その人にあった治療を行う)にも遺伝子は応用されている。
次に技術の発展により問題視されているのがクローン技術です。
  • クローン技術⇒「遺伝的に同一である個体や細胞」をさし、体細胞クローンは無性生殖により発生する。
    クローン人間の作成につながる可能性が出ているが、安全性や倫理性が問われている。
    日本では2001年にクローン技術規制法が試行され、クローン技術の使用に制限が設けられている。
クローンとまではいかなくても、部分的に失われた組織や臓器を再生する研究も進められています。
研究が進められている細胞
  • ES細胞(胚性幹細胞、もともと人体に存在)⇒他の細胞に変化できる細胞。
    将来、完全な成体に成長する能力を秘めている「発生初期の細胞」。
    本来はそのまま放置すれば一個の成体に成長するはずの細胞に手を加えたもので、少なくとも一個の生命を犠牲にする。
  • iPS細胞(人工多能性幹細胞、人工的に作られたもの)⇒分化した細胞をリセットして万能細胞をつくりだす技術。
    組織や臓器を人工的につくりだす技術。
    2012年に作製者の山中伸弥教授はノーベル賞を受賞。
    ES細胞よりは分化できないパーツもある。
ざっと用語を見てみたよ。
次は、これらと関連させて「死」を考えてみるよ
最初に現代で問題視されていることから見ていきます。
参考文献 『死因の人類史』(アンドリュー・ドイグ著、秋山勝訳)、『みんなで考えるAIとバイオテクノロジーの未来社会』(冨田勝)、『生物はなぜ死ぬのか』(小林武彦)、『ニュースがよくわかる 生命科学超入門』(斎藤勝裕)

「死因の人類史」と「ゲノムと生命倫理」

『みんなで考えるAIとバイオテクノロジーの未来社会』から基本知識と知っておきたいことを紹介していきます。

まず知っておきたいことは、「ヒトの体がどうやってできているのか」です。

ヒトの体は約37兆個の細胞でできていますが、もともとはたった一個の細胞(受精卵)でした。

受精卵が細胞分裂を繰り返すことによって、37兆個の細胞からなるヒトが出来上がるという知的システムを人間は元々そなえています。

そして、この知的システムの設計図がゲノムです。

細胞一つにつき46個の染色体があり、その文字列のことをゲノムと言います。

文字列だから、ゲノムはデジタルデータとしてコンピューター保存もできるんだね
ゲノムのうち、タンパク質の作り方が書いてある部分が「遺伝子」です。
ヒトゲノムは約30億文字。
1990年にはヒトゲノム計画がスタートし、世界中の分子生物学者が協力して30億個の文字列をすべて読みとるというプロジェクトがスタートしています。
ゲノム情報でわかるのが、個人が何が得意で何が不得意な傾向があるか。
どのような疾患にかかりやすいか、ということなど。
ゲノムを編集して、疾患を防いだり、デザインする、という技術が倫理的な議論の的になっています。
問題①(p103)
あなたは医師です。
ある受精卵のゲノムを調べたら、20代で確実に発症し、死に至る遺伝子を発見しました。
その遺伝子の配列を一文字変えることで、その遺伝病を回避できることがわかっています。
あなたは書き換えますか?
この回答を「書き換える」と「書き換えない」という見方でみていきます。
回答
  • 書き換える⇒死を回避する手段を取らない方が倫理的におかしい。
    今でも出生前診断は行われている。
    個人を守るべき。
  • 書き換えない⇒ゲノム改変を認めれば、そのうち歯止めがきかなくなる。
    デザイナーベビーが許されることになる。
    その結果、何が起こるのかわからない。
    集団を守るべき。
個人にとってはよくても、全体としてみればよくないかもしれないし、その逆もある

またこれと似たような問いがクローン技術でも出てきます。

クローンというのは、私と同じ個体を出現させること。

問題②(p149)

赤の他人の精子を用いて子どもを産むぐらいであれば、クローン技術を用いて、自分の遺伝子を100%受け継ぐ子どもを産むほうが、より倫理的なのではないか?

不妊治療や生殖医療に限っては、ヒトクローン技術はありなのではないか?

この回答を「なし」か「あり」かで見ていきます。

  • 「なし」⇒ゲノム編集の反対派の意見と同じく、ヒトクローンの技術を認めてしまうと歯止めがきかない。
    クローン技術で誕生した人間が増えるほど人命が軽視されるのではないか。
  • 「あり」⇒自分のことは自分がわかっているというように、子育てしやすい。
    得意も伸ばしやすいかもしれない。

無性生殖を選択している生物の子孫はすべて親と遺伝子が同じになります。

なので、生物にはクローンのような戦略をとっている場合はあるのです。

では、なぜ人間はクローンを選ばないのでしょうか?

それを考えるにあたって、無性生殖は寿命がない、と言われています。

同一ゲノムを維持してずっ と生殖出来る細菌や無性生殖生物は、寿命が無く、個体という考え方もしないのです。

アメーバとか分裂している生物は、親と子供という概念がない

では、なぜ人間には寿命があり、かつ老いるのでしょうか?

「人はなぜ老いるのか」

人間の体は日々生まれ変わっています。

人間は新陳代謝を繰り返していて、たとえしわだらけの皮膚であっても、それは数週間前につくられた新しいものなのです。

ヒトの体の細胞は4年でほとんど(心臓と脳以外)新しいものと入れ替わります。

他の生物は老いることなく、ピンピンコロリという感じに若いまま死ぬというほうが一般的みたい

本では二つの理由があげられていました。

なぜ人は老いるのか

  1. 情報劣化
    人はコピーミスを起こし、1回の細胞分裂で30億文字中の3文字くらいを間違える。
  2. 生物は死ぬようにプログラムされている
    細胞分裂の回数には上限があることが発見された。

有性生殖である人間には、それ特有の生存戦略があります。

その一つが多様性。

人間は多様性のために寿命がきたり、老いたりするらしいのです。

死ぬことを知っている生物は人間だけだとも言われている

クローンを選択するという事は、ヒトの生存戦略にとっては向いていない戦略だということも一つに考えられます。

『生物はなぜ死ぬのか』という本からさらに理由を探してみます。

「死因の人類史」と「生物はなぜ死ぬのか」

『生物はなぜ死ぬのか』を参照していきます。

これを考える上で、筆者は「死」も進化がつくった生物の仕組みの一部だと考えます。

今の世界にいる「生き残り」を主役にすえて考えてみましょう。

すると、多様な「種のプール」があって、それらのほとんどが絶滅したおかげで、「生き残り」が進化という形で残っているのです。(p80)

当然ですが、子どものほうが親よりも多様性に満ちており、生物界においてはより価値がある、つまり生き残る可能性が高い「優秀な」存在なのです。

言い換えれば、親は死んで子供が生き残ったほうが、種を維持する戦略として正しく、生物はそのような多様性重視のコンセプトで生き抜いてきたのです。
(p168)

でも、それなら生殖をして死んでしまうカマキリとか、寿命が短い生物の方がそのコンセプトには合っているんじゃないかな?

人間はゲノムから見ると55歳まではガンを起こさないために老化をする、ということがわかってきています。(p156)

ということは、人間は生殖以外に役割(「老化という性質を持った個体が選択されて生き残ってきた(p143)」)があるのです。

筆者は「社会の質」という観点に注目します。

人間は次の子どもたちに有性生殖で作った遺伝的な多様性を損なわない教育、「個性」を作りだす教育が必要なのではないか、と述べるのです。

それは親にはできない個性の実現を、他の大人がになうという意味も備えています。

ここまでのまとめ。

バイオテクノロジーの進歩や、再生医療の進歩により、人間はより長生きして死なないようになってきた。

けれど、人間はなぜ死ぬのか、を考えてみる。

すると、人間は多様性のために老化(長生き)し、死んでいくという戦略が見えてくる。

ここには人間の個としての戦略と、集団としての戦略の二つがある。

個を重視するならば、一個人が死なないために、テクノロジーに頼る未来も見えてくる。

一方、多様性のために絶滅すらもするという生命全体を考えるのならば、個に特化する戦略は人間にとっては採用しにくいことが見えてくる。

本を元に、生命倫理をまとめてみました。

次に『死因の人類史』を元に、人間はどのように死んできたのかを見ていきます。

「死因の人類史」

『死因の人類史』を参照にしていきます。

人類の歴史20万年のうち、少なくとも95%に相当する時間を私たちは狩猟採集民として生きてきました。

健康的な食べ物を口にし、活動的なライフスタイルを営んできたのですが、寿命は現在よりも短くて危険に満ちた世界でした。

ところが、定住が可能になることで生活が一変します。

気を付けたいのは、定住を選択することと、定住が可能になることは違うということ。

実は、人類は国家(まとまった大きな集団)をつくることが20世紀頃になるまで技術的にできなかったと著者は述べるのです。

  • 細菌の発見
  • 抗生物質の発明
  • 衛生面の強化
  • 飢餓対策

これらの技術が発展する前は、人が集まれば集まるほど衛生面が悪化し、感染症が広がり、かえって定住することで人口が減っていたという説が述べられています。

結核やチフス、天然痘といった感染症は、農耕開始とともに発生した病気だと考えられている。

だが、少数ながら、こうした病気に耐えうる適切な遺伝子を持った幸運な人やその子供は生き延びられた。(p83)

過去の文明が滅びた理由として、感染症の痕跡が多く見つかっているみたい。
感染症を治せるようになって、急激に人口増加しているのが現在

テクノロジーが発達した現在、今までとは様相が異なる時代に突入した、と考えられるのです。

ウィルスを克服しようとしている現在だけれど、かえって「ウィルスは生きている」としてウィルスの役割を見直す研究も進められている

人類のたどってきた道

狩猟採集での死因が多かった時代から、次に集団生活での死因が多い時代に人類は移っていきました。

中世では「ペスト」「飢饉」「戦争」が死因率トップ。

それが現在では「心不全」「ガン」「脳卒中」「認知症」による死因がトップになったのです。

この変化により、医療が重要になってきました。

歴史を見れば抗生物質の発見まで、医療はそこまで人の死因に関与していなかったのです。

かえって感染症の患者を診た医師を媒介として、その感染症が広がっていくこともあったみたい。
不衛生も高い死因率だった
この医療の歴史は日本のパターナリズム問題(権力に従うことで患者の選択権がない)にも適応できるかもしれない
しかし、細菌やウィルスの発見によってその対策が取られるようになりました。
一番の恩恵は、出産時の妊婦死亡率が劇的に下がったことです。
人類のここ数年における人口増加や寿命の延びは、医療のおかげ、と言える。
それでも、その発見には医療の他にも様々な発見や対策が関係している

ウィルスと人類

人類はよくボトルネック効果、創始者効果、入植者効果と呼ばれる現象を起こしてきました。

それは、個体群のごく一部のみが生き残り、その子孫が繁栄することである一つの遺伝的特徴が極端に広まることです。

バイオテクノロジーの発達以前、感染症に強かったり、飢餓に強かったりした遺伝子を持つ人々が生き残ってきました。

つまり、遺伝的に「優秀な」遺伝子は、そのような遺伝子だったのです。

人類はそれを克服しつつあるよね?
それならば、他の良さそうな遺伝を繁栄させてもいいのかな?
遺伝子操作してもいいのだろうか、という疑問への例の一つが砂糖です。
例えば、人は航海するためには、太っていた方が生き残れました。
太るのを促す一つが砂糖です。
航海技術を得た人々は飢餓で苦しむことが減り、かえって砂糖による成人病に苦しむようになりました。
砂糖が一般的になって50年ほどでこの変化です。
一つの世代をまたずに良い悪いが反転する世の中において、人が技術介入してよいのか?という問いを私たちは突き付けられています。

技術と死因

また技術が発達することによる死因も増えてきました。

アルコール依存症、タバコ、自動車事故などです。

これらは便利で依存性があるものですが、死因にもなってきます。

筆者は「人を死にいたらしめてきた原因がどのように変化してきたのか」を本にしようと思ったとき、はじめは医学について書くことになると考えていたようです。

しかし、本の内容は異なりました。

だが、われながら驚いたことに、人間にとって最大の問題の多くを解決してきたのは、医学そのものとはほとんど関係がなかったという事実であり、そのような発見の連続だった。

問題解決をうながしてきた進歩は、医療ではなく、さらに優れた法律や政治、あるいは工学や統計学、経済学が出現した結果であり、意欲と才能ある者たちが文字どおりすばらしい考えを思いつき、世の中の抵抗を押しきってそれを認めさせてきた結果であるケースが少なくなかった。

つまり、死因の歴史を調べるには、当初予想していたより多くの分野について調べつくさなくてはならなかった。
(p442)

世の中の抵抗とは、例えばワクチン接種がその病原菌の膿を摂取することだったり、一見無駄と思えた「清潔にすること」だったりしたからです。

病気で苦しんでいる人に、部屋を綺麗にするように、といったら因果関係を疑われる
ワクチンは牛を意味するラテン語由来。
感染症が繁栄していた時、牛絞りに従事している女性は感染症率が低くて、その対策としてワクチンが考えられていった
生命倫理を考えるときには、多くの分野を調べる必要があるかもしれません。
『死因の人類史』と技術の進歩についてやりました。
次回は、環境の倫理に移ります。
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