オーウェル名言風刺

オーウェルの名言と風刺を紹介|動物農場やエッセイなど

ジョージ・オーウェル(1903-1950)はイギリスの作家です。

代表作は「動物農場」、「1984年」など。

オーウェルの死後から30年、それらの本は脚光をあびて20世紀のイギリスで数々の受賞をしました。

なんで時代を超えて有名になったのかな

彼の作品には風刺、批評、皮肉があふれています。

今なお私たちを魅了するオーウェルの名言と風刺を紹介していきます。

オーウェルの名言を評論集から

なぜオーウェルの名言が人々を魅了するのかと言えば、そこにはリアリズムがあるからです。

オーウェルの最大の特徴は、けっして嘘をつかなかったことだと言われています。

時代背景も踏まえながら引用していきます。

出版の自由に対して

もし自由になんらかの意味があるとするならば、それは相手が聞きたがらないことを相手に告げる権利をさすのである。
(オーウェル評論集p361)

この名言は「出版の自由」に対する批評から抜粋しました。

例えば、オーウェルのベストセラー「動物農場」はあきらかにロシアを対象にしています。

1945年出版の「動物農園」は、物語に登場する独裁者の豚をスターリンに見立てているのです。

豚ってことだけでも怒られそう…
なので、出版までには難色を示されたと言われています。
オーウェルはこの例をとっても、知性に泥を塗りたがるのは知識人なのだと述べます。
この国の作家やジャーナリストが対決を迫られる最大の敵は、知識人の臆病心なのだ。(p347)
「非難されそうなことは出版しない」という心持に対する批判です。
オーウェルは自分の思想がまた次の思想に移動したとしても、かならずしも進歩したことにはならないと言います。
自分の主張を絶対視していません。
オーウェルが書くのは暴露したい嘘があるから、関心を持ってもらいたいから、実益のない知識の断片を楽しむ性癖があるから、と語るのです。

かえって、オーウェルは「建前」に満ちた議論を非難し、矛盾にみちた「本音」をさらすことによって、広く語りつがれるようになりました。

こんなことも書いちゃうんだ…という評論を紹介していくよ

オーウェルのナチス批判

オーウェルはヒットラーの批判もしています。

ヒトラーは精神が硬直していて、彼の目標通りの国ができていたとしても、愚かしい帝国にしかならなかった、と。

しかし、オーウェルは自分とヒットラーに同一点を見出します。

わたしは、自分が一度もヒットラーを嫌いになれなかったことを、はっきり言っておきたい。(オーウェル評論集p219)

ヒットラーは自分の快楽を顧みずに、身を粉にして政党のために尽くしたと言われています。

政党のトップになっても、自分の私利私欲には走らなかったのです。

なぜヒットラーが人々を魅了したのか、それを解釈していく視点

ヒットラーは楽しみを知らない人間だけに、人間が欲しがるのはかならずしも安全・安心・衛生・一般的な常識といったばかりではないことを知っていた」とオーウェルは述べます。

なのでヒットラーは名言を生みだしたのだ、と。

オーウェルが抜粋した「ヒトラー名言」

  • 「諸君には闘いと危険と死を約束する」
  • 「終わりなき恐怖よりも、恐怖とともに終わろう」

このスローガンを考え出したヒトラーは手ごわい、とオーウェルは語るのです。

とはいえ、歴史的なホロゴーストをうみだしたヒットラーの弊害は、今なお残るといいます。

ユダヤ人差別について

なぜホロゴーストが生み出されたのか。

その原因の一つに当時の英国における「ユダヤ人差別」がありました。

ところが、ホロゴーストがあった後、人々は「ユダヤ人差別」について語ることに口を閉ざしました。

ドイツでのユダヤ人迫害は、むしろユダヤ人差別の問題が真剣に検討されなくなるという弊害を生んだ。(p265)

例えば、英国の知識人はユダヤ人差別を恥じているけれど、ユダヤ人は嫌いだと述べます。

つまり、差別と嫌いを区別することはできるのですが、嫌いなものはどうしようもない、という態度になるのです。

歴史的に嫌われた要因をみてみます。

  • ユダヤ教にユダヤ人だけが助かるという選民思想がある
  • ユダヤ人は一般民衆に悪く言われやすい商売にたずさわっていた
  • ユダヤ人被災者がロンドン全域に散った必然的なことに対して、ユダヤ人は臆病と見なされた

このように、人々が差別をしてしまうような偏見があったのだというのです。

そして、その偏見が生み出された要因として、「ユダヤ人はあきらかにスケープゴート(生贄)」 だとオーウェルは述べます。

争いが起こるとき、私たちは何かを敵にすることで味方の結束を固めるという戦略がとられます。

歴史的にみれば他のジェノサイドも、そのように一方的な「悪」が仕立て上げられたのです。

もしユダヤ人差別が民衆とヒットラーに根本にあったとしたら、それは何が原因で起きていたのか。

その問いをオーウェルはわたしたちに問いかけます。

「なぜユダヤ人差別思想はわたしの心をとらえるのだろう?」という疑問から出発しなければならない(p275)

世間一般にユダヤ人差別があることは誰もが認めるくせに、自分もその一人だということは認めたがらない事実があると述べられています。

心理学的に見れば人間には本性として差別があると言われてる…

そして、人が差別する原因の一つであるナショナリズムについても、オーウェルは批評しています。

ナショナリズムと道徳的努力

「ナショナリズム」というときわたしがまっさきに考えるのは、人間を昆虫と同じように分類できるものと考えて、何百万、何千万という集団をひとまとめに、平然と「善」「悪」のレッテルを張れるときめてかかる考え方である。(p307)

まっさきに浮かぶナショナリズムは「善」「悪」で分ける考え方です。

まずはこれなのですが、オーウェルはナショナリズムに対してパターン分けをして述べていきます。

ナショナリストたるものはつねに、より強大な権力、より強大な威信を獲得することを目指す。
それも自分のためではなく、個人としての自分を捨て、その中に自分を埋没させる対象として選んだ国家とか、これに類する組織のためなのである。(p308)

他人のためという「良いイメージ」なものも出てきた…
「ナショナリズムは自己欺瞞をふくむ権力願望なのだ」と述べます。
ナショナリストは自分よりも大きなものに殉じているという意識があるので、どんな不誠実なことをやっても、自分はぜったいに正しいという信念が持てるのだ、と。

オーウェルがまとめたナショナリスト思想の特徴

  • 偏執⇒組織の優越性以外のことは考えない
  • 不安定⇒対象が簡単に変わる
  • 現実無視⇒事実の相互類似性を認めない
    客観的事実の無視
  • 味方の残虐行為は耳に入らない
  • 過去は改変できるものだと信じている

思想の特徴を述べた後に、ナショナリズムの型をいくつか述べていきます。

  1. 新トーリー主義
  2. ケルト・ナショナリズム
  3. シオニズム
  4. 共産主義
  5. 政治的カトリシムズ
  6. 人種差別感情
  7. 階級差別感情
  8. 平和主義
  9. 反英感情
  10. ユダヤ人差別
  11. トロツキズム
あれ、なんか多種多様…
たくさん述べたのには訳があります。
このエッセイの目的は、誰の心にも潜んでいて思考を歪めているものの、かならずしも純粋な形では現れず、また絶えず作用しているわけでもないいくつかの性向を純粋な形で取り出し、確認することだからである。(p336)
つまり、誰にでもその鱗片や限定的なもの、間欠的なものは持っているのだとのべます。
極端な例としては、私たちも油断をすれば「ナショナリスト」と同じになりかねないことは、自覚しておく必要がある、と。
心の奥のどこか痛いところに触れられる、ーそれもそんなものがあることさえまったく気がつかずにいた痛いところをーつかれたりすると、この上なく公正な精神とやさしい心の持主が、とつぜん極悪な党派的人間に変貌し、敵をやっつけることしか考えなくなって、そのために平気でいくらでも嘘をつき、論理的な誤りを犯すようなことも珍しくはないのだ。(p337)
例えば、平和主義者。
これに対しては「彼らが暴力を『放棄』できるのは、他の人間が彼らに代わって暴力を行使してくれるからだ」と述べます。
日本人にはこれが効きそう…
オーウェルはあえて痛いところをつきます。
彼の述べるナショナリスチックな愛情の念は、ほとんどすべての人間の気質の一部になっているからです。
あえて皮肉、批評をしていきます。
その理由。
ナショナリスチックな愛情の念はーこれを除去できるかどうかはわからないが、これに抵抗することは可能なのであって、それこそがほんとうの道徳的努力だとわたしは信じる。
そのためにはまず、自分のほんとうの姿、ほんとうの感情を知り、その上で逃れられない偏向を認めることである。(p341)

オーウェルの批評は、私たち自身を見つめさせます。

私の逃れられない偏向をどうしたらいいのか、その問いを考えられるようになるね

ここまでは批評の紹介でしたが、風刺の紹介もしておきます。

彼の風刺といえば「動物農場」。

オーウェルの風刺「動物農場」

あるところに動物農場がありました。

たくさんの動物がいる中、そこの豚は賢かったのです。

動物たちは毎日、牧場主に仕えていました。

けれど、ある日。

牧場主が動物たちに餌やりを忘れた日があったのです。

お腹を空かせた動物たちと賢い豚。

それが反乱のきっかけとなり、動物たちは牧場主を追い出しました。

革命です。

それを機に、豚たちが筆頭になって牧場に新しく規則を作りました。

  • 二本足で歩くものは敵
  • 四本足や翼を持ってるものは味方
  • 衣服を身につけない
  • ベットで眠らない
  • 酒をのまない
  • 他の動物を殺害しない
  • すべての動物は平等である

規則をかかげて、みんなが平等に農場を成り立たせていくことにしました。

しかし、時々事件が起きます。

例えば、牛のミルクがどこかに消える。

謎の事件だったのですが、豚が犯人だとわかりました。

豚「私たちは頭脳労働に従事していて、これは大変なことなのだ。
ミルクとリンゴは私たちが食べる」

豚の頭領ナポレオンは頭角を現していきます。

他の意見の合わない豚を悪にして追放。

ナポレオン「悪から農場を守るために、みんなが働かなければいけない」。

ナポレオンは規則を自分の都合が良いように変えていきます。

  • ベットのシーツの上で寝ない
  • 酒は過度には飲まない
  • 他の動物を理由なく殺害しない
  • 「すべての動物は平等である
    しかし、ある動物は、ほかのものよりも
    もっと平等である」

他の動物たちは元の規則を忘れていきます。

記憶力が乏しく、文字を読める者も限られている。

元からそのようだったのだ、と豚の幹部が作った物語を信じていくしかないのです。

農場にはボクサーという働き者の馬がいました。

  • 「ナポレオンは正しい」
  • 「私がもっと働けばよいのだ」

ボクサーはこの二つが口癖で、みんなより早起きし、みんなより働き、農場を良くしました。

けれど、ボクサーは死期が近くなると、屠殺業者を呼ばれて連れ去られます。

文字を読めるロバはその事実を叫びましたが、結局は賢い豚の幹部にみんな言いくるめられました。

物語はナポレオンが他の農場主たちと同盟を交わすところで終わっています。

二本足で立ち、服を着た豚。

どちらが人間で、どちらが豚なのか見分けがつかなくなっていました。

物語は哀愁をただよわせて終わっているよ

動物農場の時代背景

本が出版された1945年は、第二次世界大戦が終わった年。

社会主義が全体主義、権威主義へと変わるさまを物語は描いています。

物語の出発点のモチーフはロシア革命(1917年)。

ロシア革命によりロシア帝国は社会主義国家樹立につながります。

この革命の指導者はレーニン。

革命を起こそうと述べた最初の豚はレーニンをモデルにしていると述べられています。

物語の始め、革命をしようと語る年老いた豚のジョーンズさん

レーニン死後(物語でもジョーンズさん死去)、スターリンが最高指導者になりました。

物語の支配豚ナポレオン。

ナポレオンのモデルはスターリンだと言われています。

ボクサーはトハチェフスキーやその他。
(トハチェフスキー⇒ソ連軍に多大な功績を残す。
が、スターリンを差し置いて脚光を浴びるたびにスターリンは危機感を抱くようになりトハチェフスキーを処刑「赤軍大粛清」)

物語の後半でナポレオンが隣の農場と交わした条約は独ソ不可侵条約(1939年)。

独ソ不可侵条約は第二次世界大戦の引き金の一つと言われています。

物語と歴史を比較するのも楽しみ方の一つ

オーウェルの名言と風刺まとめ

オーウェルの発言はたえず論争を招き、彼を孤独な立場に追いやったと言われています。

読む人の心に訴えかけるからです。

さらに、オーウェル自身は不徹底や自己矛盾が多いことでも批判を受けました。

しかし、この不徹底や自己矛盾はオーウェルの「誠実さ」として今の人々に再評価されています。

風刺は童話の形をとりつつも、歴史から引用されています。

オーウェルは全体主義的思想の鋭敏な批判者として知られているよ
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