自分は変えられるけど、他人は変えられない。
こんな言葉を聞いたことがないでしょうか?
ベストセラー「Think clearly」(ロルフ・ドベリ著)でも使われていた言葉です。
では、なぜ私たちはそれに納得するのでしょうか?
社会学者ギデンズの再帰性から、自分が変わる理由を紹介します。
そこから、自分が変わるのに、他人は変わらないと思うのはなぜかを考察します。
(社会学用語図鑑)
再帰性とは
再帰性とは、対象についての言及や観察の行為自体が、その対象に影響を与えること。(広辞苑)
つまり、自分の過去の振る舞いを反省的に捉えなおして、それを反映させながら自分自身を変化させていくことです。
過去の自分の行為を振り返って、自分の後の行動に反映させます。
反省することで個々人の行為がつねに変化していきます。
では、社会が変化した場合は何と言うのでしょうか。
構造化理論
イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ(1938~)は構造化理論を唱えました。
構造化理論とは、社会の守るべきルール(構造)自体が生まれていくプロセスを掴むことが社会学の課題だと考える理論です。
この理論は社会が変化していくことを説いています。
このように、社会のルール(環境問題改善)は固定的ではなくつねに生産されています。
どうしてレジ袋が有料になったのかなど、社会変化のプロセスを掴むことが構造化理論での課題です。
- レジ袋有料化
- マスクをするようになったこと
- リモートワークが進んだこと
- ストローが紙へと変化
- 戦争
今の時代は変化をたくさん感じられます。
ギデンズは再帰性が近代社会の特徴であると考えました。
>>ポスト構造主義とは
再帰性がなぜ起こるかというと、「脱埋め込み」があるからだとギデンスは語ります。
脱埋め込み
脱埋め込みとは、限られた時間と空間にいた人々がその枠に捉われなくなることです。
インターネットや輸送技術が進む以前、私たちは地域にしばられていました。
やりたい仕事があればその場所に行かなくてはいけないし、その場所の人間関係が自分の主なものになります。
しかし、インターネットの普及によって勉強は他の場所でもできるようになりました。
他の空間や異なった場所でも人間関係を築けます。
近代になり、時間と空間の分離や技術の促進というグローバル化が進んだことによる変化です。
人々が地域に埋め込まれていたことから、脱する。
脱するので、脱埋め込みとギデンスは述べたのです。
変化は多様です。
次に、再帰性の時代から、自分は変わるけれど、他人は変わらないと思う理由をみていきましょう。
再帰性の時代から、他人が変わらない理由を考察
著者ロルフ・ドベリ累計250万部突破の世界各国で話題になった『Think clearly』(シンク・クリアリー)から理由を探ります。
この本は、最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法が書かれています。
資本主義社会での競争における変化
筆者は『鏡の国のアリス』の一説を引用します。
「この国では、同じ場所にとどまりたければ全力で走りつづけなければなりません。」
「つまり、資本主義経済では現状を維持するためには、周囲の変化に合わせて進化しなければ、生き残ることができない。」
このことが言いたいのだと筆者は解釈していました。
例えば仕事。
グローバル化によって、物を売る競争相手は世界各国にまで広がりました。
個人ですら、敵にアマゾンを持つことができるのです。
アマゾンに立ち向かうにはより進化しなければ、生き残れません。
そして、仕事でなくてもプライベートですら、気を抜けばすぐに競争に巻き込まれてしまうと言います。
- ツイッターのフォロワー数やいいねの数
- 友人がダイエットに成功すれば、自分もダイエットをしようと焦る
- トレンドの服を見かけたら、それを身に付けようと思う
どんなことに対しても、競争があるのが近代だと本では述べていました。
その競争に合わせて、自分が変わろうとしているのです。
このより上に向かおうとする変化も再帰性です。
自分では変化を感じているのですが、周りの評価は同じだったり変わっていないと思われています。
走っている私にとって社会(他人)は変わらないと思うのです。
ただし、この章で筆者は目の前のことだけを見て変わっていくと、全体が掴めなくなると忠告しています。
「軍拡競争に気をつけよう」と述べていました。
自分以外の人間の性格はけっして変えられない
『Think clearly』の20章の段落の見出しを抜粋します。
「自分の性格の変化をコントロールするのは難しい。性格の変化の大部分は、遺伝子に組み込まれたプログラムに沿って起きているからだ。」
では、自分は変化しないのかというとそんなことはありません。
最近の研究では、私たちの性格は年月の変化とともにかなり変化することがわかっているそうです。
再帰性の社会にいるので、自分は変化していると感じられます。
「ただ、その変化は私たちの内側で起きているうえに、ほんの少ししか変化しないため、自分ではそれに気がつかない。」
と続けて述べられていました。
10年単位で比べてみると、自分が変化していることに気がつくのです。
しかし、一つの謎があります。
これを読んでいるのは私ですが、筆者からすれば他人になるということです。
筆者は私のことを他人で、変わらない人物だと見ます。
それは、10年単位で変化を感じられる他人は限られているからです。
他人も数年単位で比べてみると、変化していることに気がつきます。
ただしその変化は、自分も他人も気がつかないところで起きています。
私たちの中にある「自分像」は間違っている。
ロルフ・ドベリは私たちは「実際の自分」を高く評価しすぎる「自己奉仕バイアス」を持っていると述べています。
これによって、自分のことを重要人物のように勘違いしてしまう、と本では述べられていました。
自分は変わっているのに、他人は変わらないと思うこと自体にも、この心理は働いているのかもしれません。
この章の題名は、「本当の自分を知ろう」です。
再帰性とはー自分が変わる理由まとめ
社会学者アンソニー・ギデンズ(1938~)は近代を再帰性の時代だと言いました。
- 近代化により、地域から脱する脱埋め込みが起こる
- 個人が変化する再帰性が起こる
- 変化から社会の守るべきルール(構造)自体が生まれていく(構造化理論)
用語の確認。
- 再帰性⇒自分の過去の振る舞いを反省的に捉え直して、それを反映させながら自分自身を変化させていくこと
- 構造化理論⇒社会のルールが生まれるプロセスをつかむことが社会学の目的
- 脱埋め込み⇒限られた時間と空間にいた人々がその枠に捉われなくなること
社会学の他にも、『Think clearly』から、自分は変わるけれど他人は変わらない理由も考察しました。
- 資本主義社会での、自分が変化することが変化しないというあり方。
- 10年単位でみれば、多くの人の性格は変化しているという最近の心理学調査。
- 「自己奉仕バイアス」による思い込み。