社会契約説の成り立ちをホッブズ⇨ロック⇨ルソーの順でみていきます。
>>ホッブズの社会契約説
>>ロックの社会契約説
今回はルソーの社会契約説を紹介していきます。
ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)はフランス革命前夜の急進的啓蒙思想家と言われています。(哲学用語図鑑)
では、ルソーが考えた社会契約説を見ていきましょう。
ルソーの社会契約説の成り立ち
ルソー著書「社会契約論」から社会契約説の成り立ちをみていきます。
日本の教科書の流れではホッブズ⇨ロック⇨ルソーが一般的です。
まずホッブズが神と「王様の権限」の結びつきを否定します。(王権神授説の否定)
続いてロックが国民に主権があると説き、抵抗権を認めます。
次にルソーの一般意思の考え方がフランス革命に影響を与えます。
このような考え方です。
「国王なんて必要ない!
直接民主制がイチバンだ!」(哲学用語図鑑)
ルソーは今までの法は強者を守るためにすぎないもので、不平等を土台にしていると考えたのです。
そして、ルソーは一般意思という概念を説きます。
一般意思とは公共の利益を求める人民の意志です。
本来みんなが共通に持っている助け合いの心とも表されています。
個人の私的な利益を求める特殊意思、特殊意思の総和である全体意志とは異なります。
詳しく見ていきます。
特殊意志とその総和の全体意志
一般意志と全体意志とは違います。
次の例は、全体意志です。
Bさん「あ、私も欲しい!」
Cさん「私も!」
このような個人の私的な利益は特殊意志です。
そして、この特殊意思を足して合わせたものが全体意志になります。
特殊意思を足し合わせたものを全体意思といい、いくら合わせても一般意思にはなりません。
一般意思ではお互いに対立して否定しあう論も検討しなければいけません。
スマホを買う予算や、スマホが必要ないという人の意見も参考にします。
そうして出来上がった一般意思は「その定義上決して誤りに陥ることがない」と言われるものです。(一般意思2.0)
これに影響を受けたのがフランス革命家の一人、ロベスピエール(1758-1794)です。
彼は自分の思想で「一般意思」を解釈して、それによって恐怖政治をすすめました。
ロベスピエールの「ルソーの霊への献辞」。
神のような人よ、あなたは私に、自己を知ることを教えてくれた。
あなたは、まだ若かった私に、自己の本性の尊厳を尊重し、社会秩序に関する偉大なる原理について熟考することを教えてくれた。-
あなたの著作から汲み取った教えにつねに忠実であり続けることは、なんと幸せなことであろうか。(ロベスピエール 参照)
彼はルソーに忠実だったと述べています。
では、なぜ恐怖政治になってしまったのかを見ていきましょう。
フランス革命に影響を与えたルソーの一般意思解釈
ルソーの一般意思は様々に解釈されてきました。
そして、その解釈の一つがフランス革命家ロベスピエールに使われました。
ルソーは直接民主制を説くのですが、一般意思を一番に重要視します。
彼にとって国民の総意(一般意思)が主権を構成していることが一番重要であり、それを実現する対象は誰でもよかったのです。
まず一般意志ありきです。
ルソーは人民が社会契約で生み出したのは一般意思であり、政府は一般意志を執行する一機関にすぎません。
それは政府でも王様でも貴族でも、国民が望むのであれば誰が実現してもよかったのです。
「政府は一般意志の執行のための暫定的な機関にすぎない。だから、人民はいつでもその首をすげかえることができる。(一般意思2.0)」
この思想は革命を推進させました。
絶対王政を打ち破ったのです。
ロベスピエールは絶対的な一般意思、ここでは国民主権をかかげて、恐怖で人民を支配しました。
彼は国民主権が一般意志だと強く信じ込んだのです。
その過程では、非人道的なこともしました。
例えば、弁護人や承認を廃止し、判決は死刑か無罪のみとして裁判手続きを簡素化・迅速化したものを支持。
これにより、1994年、その法律の二カ月だけで反革命容疑者の半数1500名が処刑されてしまったといいます。
一般意志として国民主権を掲げて、絶対的なものだとする。
すると、それを実行する革命の保証と、「誤りに陥ることがない」というルソーの主張が革命を後押ししたのです。
ただし、ロベスピエールには批判を加えることができます。
一般意志は全体意志とは異なるので、人民はいくら議論を交わしても、自分たちの力では一般意志に到達することができません。
ルソーの思想では一般意志を具体化するためには「天才」「神々」といった「超人間的な特異点が必要とされる」という結論に行き着きます。
だからこそ、ロベスピエールがその立ち場にたったのですが、そうなることで一般意思が一番重要なものにはならなくなってしまうというパラドックスがありました。
一般意志があっての政府であるのに、政府が主体になってしまったからです。
ここで解釈された一般意志と啓蒙主義との結びつきも見ておきます。
一般意思解釈と啓蒙主義
啓蒙主義とは、社会契約論の普及に努め、市民革命を推し進めることです。(哲学用語図鑑)
啓蒙とは無知の人を啓発して正しい知識に導くことをいいます。
啓蒙主義者たちは、国家や社会のあり方をもっと論理的に捉え、合理的なものにしようとしました。
合理的というと、啓蒙主義者の多くは神を信じませんでしたが、当時の国民にとっては国を統治するものが神でした。
神を絶対だと信じています。
このように信じている人に、理性で考えさせたので啓蒙といいます。
そして、この啓蒙主義の考えは、科学革命をもたらしました。
「雨が降らないのは神様が怒っているせいだ!」
⇩
「水蒸気によって雲ができて、そこから雨がふる。」
当時の人々は雨も神様のせいだと思っていました。
このような科学の知識は、集団的妄想を打ち消しやすくなります。
ただし、啓蒙という言葉は今ではあまり聞かれなくなっています。
その理由としては、啓蒙の「蒙」という字は、知識不足や愚かなこと、無知なことという意味があります。
自分のことをさしてつかう分にはいいのですが、相手に言う場合は失礼にあたります。
ルソーの一般意志-東浩紀さん解釈
「一般意志」で東浩紀さんが比喩によって一般意志を表している言葉を述べていきます。
「一般意志とはデータベース」
「一般意志は<均されたみんなの望み>」
「一般意志とは集積知」
「一般意志とは数学的扱いをされるもの」
「一般意志とは事物」
このように一般意志をイメージしてみて下さい。
人間は集まると、自分では意識していないところで平均体重や平均身長などの値がでています。
このように数値化でき、しかも全体の意見を取り入れているようなデータを収集したようなものが一般意志なのです。
「一般意志が適切に抽出されるためには、市民は『情報を与えられて(informé)』いるだけで、たがいにコミュニケーションをとっていない状況のほうが好ましい」(一般意思2.0)
さまざまな意志がたがいに差異を抱えたまま公共の場に現れることによって、一般意志が生成されるといいます。
「一般意志への従属は人間への依存ではなく事物への依存であり、だから強固でよいものなのだと記している。」(一般意思2.0)
ルソーは人間の社交性に需要な価値を認めなかったのです。
このように述べることで、ルソーは理性を重視せずに人間の感情や直観を大事にしました。
無意識を形にしたものが一般意志なのです。
このように解釈された一般意志と全体意志を比べてみましょう。
全体意志と一般意志の比較
全体意志と比較して考えてみます。
全体意志ではみんなが話し合いによって意見をだし、その中で一つの意見を決めます。
有名な例で言えば、アビリーンのパラドックスを思い浮かべて下さい。
アビリーンというのは地名です。
私「みんな、アビリーンに行くよ!」
Aさん「いいね!」
Bさん「いこう!」
Cさん「よし、出発だ!」
このようにみんなの特殊意志(要望)を足したものが全体意志だと言えます。
しかし、アビリーンのパラドックスとは、実はみんながアビリーンに行きたくなかったと言う話なのです。
私「みんな、アビリーンに行くよ!(ほんとは行きたくない)」
Aさん「いいね!(しょうがないな。。)」
Bさん「いこう!(いやだな)」
Cさん「よし、出発だ!(みんなが言うなら仕方がない)」
一般意志というのは、みんなの隠れている真意を読み取ります。
なので結果としてコミュニケーションのせいで出てしまった結果ではなくて、無意識に正しいとされている結果を採用します。
ここでの一般意志では「アビリーンに行かない」ことが選択されます。
だから、一般意志は「誤りに陥ることがない」と言われるのです。
ルソーの考えた人間の自然状態も見ていきましょう。
ルソーの「人間の自然状態」とは
人間の自然状態とは、権威が存在しない状態を言います。
ルソーの自然状態では、人は平和であり、たがいに自由・平等で、信頼で結ばれた理想状態だといいました。
しかし、世は絶対王政の時代です。
ルソーの説く理想状態ではありません。
それは何故なのかと言えば、ルソーの自然状態ではさらなる前提がありました。
「そもそもルソーにおいては、人間は自然状態では孤独で、たがいにばらばらに暮らすことに満足していたはずであり、社会を作るのは望ましい事ではなかった。(一般意思2.0)」
ルソーの時代は無意識が発見されていませんでしたが、ルソーは明らかに無意識を説いていると東浩紀さんは言います。
「人民が自分たちの真の欲望を自覚していない」状態にある。
「人間は中途半端に動物だから社会を作ってしまう」
「人間は孤独で非社交的で、憐みの情に導かれるままに共同体をつくり、しかも自分の欲望がなにかもよく理解していない。」
ルソーはそんな弱い人間を自然状態として想定していたといいます。
では、そんな人間の自然状態を打ち崩したものはなにか。
ルソーによれば産業が発展し、人々が財産を持つことで支配と服従の関係がうまれました。
そのために不平等が社会に広がったと考えます。
今まではみんなに使われてきた土地も、所有者がいるようになりました。
助け合って食料を分かち合うこともなくなり、一人でたくさんの農作物を持つことが不平等につながります。
そうなると生じるのが妬みや虚栄心です。
ルソーによれば、妬みや虚栄心は人間が定住生活をしたときから始まったと言います。
家族を中心とした定住生活では、家族がまず私有財産を生みます。
そして、家族から社会集団が成立し、自尊心が育つとともに虚栄心や妬みの感情も発生します。
人は尊敬を目標に、自分をよく見せようとします。
このような感情から、貧富の差、強者と弱者の差ができ、奴隷制度も出来上がったとルソーはいいます。
ルソーは人と人同士の争いは、こうした定住生活や所有権が発生する前の状態では起こらないと考えました。
なので、このように主張します。
ルソーはロマン主義者
ルソーのこの言葉は所有が生じる以前に戻ることを指しています。
ルソーはロマン主義者だと言われます。
ロマン主義者は「昔は良かった」と昔を懐かしむイメージです。
自然状態の人間は、生きることと憐れみの感情で生きています。
家族もなく、ばらばらに生きていて、助け合いの心(憐れみ)によって助け合っているのです。
ルソーは所得差が大きくなった当時の不平等な社会を批判しました。
文明が進めば進むほど、社会の不平等は大きくなるとルソーは感じていたようです。
契約によって、一般意志を確認して、その意志に服従することで社会がつくられると考えました。
自分で自分の規則をつくってそれに従う(一般意志)ので、個人の自由は尊重されると考えます。
ルソーの「社会契約論」と一般意志-まとめ
ルソー「社会契約論」の成り立ちでは、絶対王政に反対して個人の自由と平等を重要視しました。
一般意志を唱え、それに従うことが良いこととしたのです。
一般意志は公共の利益を求める人民の意志であり、自分が立てた規則です。
無意識的な集積知が全体の真意を表すので、それは誤ることがありません。
全体意志よりも一段上のみんなの無意識による集積知のデーターベースが一般意志です。
自分で自分の立てた規則に従うことは、自分の自由を尊重します。
ルソーは理性を信じていませんでしたが、ルソーの思想は啓蒙主義に使われています。
フランス革命ではロベスピエールの思想の元になりました。
国民主権が一般意志と結びついてそれが強硬されたからです。
一般意志は目に見えなかったので、いろいろに解釈をされてしまいました。
そのため、恐怖政治やナチスの独裁に使われてしまったと東浩紀さんはいいます。
しかし、現代はコンピューターによって無意識が可視化できる時代にきています。
なので、新たな「一般意志2.0」を東さんは著書「一般意思2.0」で考えていました。
ルソーの理想は昔にかえることでした。
それでも、人が生まれながらに社会の中にいることを受け入れています。
なので、ルソーは著書「社会契約論」で一般意志による理想的な国家を説いています。