「人間としての自覚」
第5節「中国思想」
④老子の教え
老子「大道廃れて仁義あり」
- 老子の教え
- 老子の無為自然
- 老子の小国寡民
- 道家とは
参考文献 続・哲学用語図鑑(田中正人、斎藤哲也)
老子の教え
老子は生没念不明です。
ですが、孔子(前551頃-前479)との対話があるので、その頃の人だとされています。
老子は若いころは周の役人だったのですが、その地を去ることにしました。
去るときに、他の役人に「教えだけでも授けてほしい」といわれて『老子道徳経』(上下2編、約5000語)だけを残します。
老子の道(タオ)
老子の教え|無為自然
賢明な生き方をしたければ、道に従えばよいと老子は言いました。
これを無為自然と言います。
無為自然⇒作為のないあるがままの自然な生き方
作為とは人が意図して作り出した道徳や文化のこと。
例えば、礼儀、名誉、財産、文明、知識などです。
作為によってつくられたものも道の法則に従って変化消滅します。
- 上善は水のごとし
- 柔弱謙下
- 学を経てば憂いなし
- 知足
- 無欲恬淡
上善は水のごとし
賢明に生きるためには、水の性質を見習うべきだと老子は考えました。
老子「上善は水のごとし」
最上の善は水のようなものだ、という意味。
水の性質
- 水はこだわりなく形を変え、争うことはない
(例えば素直な人のこと) - 水は人の嫌がる低い方に流れ、そこにとどまる
(例えば人の嫌がる仕事を進んでやる人) - 水は弱くて柔和だけれど、攻撃されても堪えない
(例えば脅しても平気な人) - 水は人の役に立っているけれど、おごることなく謙虚
(例えばボランティア活動を利益なく行う人) - 水は静かで何も語らない
(例えば功績があったのにそれを語らない人)
老子は水こそ最も道(タオ)に近いと考えました。
柔弱謙下(じゅうじゃくけんげ)
柔弱謙下(じゅうじゃくけんげ)とは柔和でへりくだった心をもつことです。
自然を観察すると、作用は反作用をうむことがわかります。
例えば、川の流木は流れに抵抗せずに流れに任せることで遠くまで行くことができ、反対に抵抗すると遠くまで行くことはできません。
柔弱謙下ができていない例
- 尖っている山は削られる
- 立派な竹だと出来の悪い竹よりも切られてしまう
- 立派な牛だと儀式に使われて寿命が短い
- 出る杭は打たれる
作用は反作用を生むという法則。
この法則を重視して、老子は他者とは争わずに柔弱なことは結局は硬く強くあるのだと説きました。
ただし、このことわざは日本の戦国時代のことわざみたい
学を絶てば憂いなし
学を絶てば憂いなし
唯(い)と阿(あ)と相い去ることいくばくぞ
善と悪とは、相い去ることいかん
「学を絶てば憂いなし」は、中途半端な知識は持たない方が迷いがなくなる。
「いとあと相い去ることいくばくぞ」は、「はい(い)」と答えても、「うん(あ)」と答えても、大した違いはない。
「善と悪とは、相い去ることいかん」は、善と悪にどれほどの違いがあるのか、と問いかけています。
善悪の知識は時代や立場によって変わります。
儒教の批判例(教科書外)
>>孟子の思想
かえって、老子だと自然にのびのびしてたほうが、身体機能的にも正常で人間的だと考えている、とか
>>利他はどこからやってくるのか
知足
老子は、足るを知る(知足、満足することを知る)ことが大切だといいます。
何事に対しても「満足する」という意識を持つことで、精神的に豊かになり、幸せな気持ちで生きていけると説くのです。
例えば、刀を研ぎすぎれば脆くなって折れてしまうし、あふれるほどコップに水を注げばこぼれてしまいます。
(うーん、でも老子は時代や環境に合わせることも重要と言ってて、資本主義社会ではここはがんばれと言った方がいいのかな…)
無欲恬淡(むよくてんたん)
無欲恬淡(むよくてんたん)は欲望を抑え、執着を捨てること。
この言葉には無欲とありますが、老子は欲そのものを否定しているわけではありません。
「無為にして為さざるは無し」のように、無為こそできないことはない、無為だからこそなんでもできる、というとらえ方でもあります。
つまり、忘れてる(無)な人の方がそれを体得している(有)ってことだね
老子は政治についても述べています。
老子の教え|小国寡民(しょうこくかみん)
老子の生きたとされるのは春秋戦国時代。
王たちが領土拡大のために戦争をしている時代にもかかわらず、老子は小さな面積で少ない人口の小国寡民の国の方が幸せだと主張しました。
老子の教えと道家
老子を祖とする思想は道家思想とも呼ばれます。
道家思想は後に仏教や五陽五行説(陰陽家の思想)と合わさって、民間信仰である道教を生みました。
道教は仙人を目指す宗教です。
道教は道家の思想から生まれましたが、老子や荘子の思想とは別物とされています。
道家や道教の思想に影響をうけていそうだね