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「闇の脳科学」ロバート・ヒースの物語の感想

「闇の脳科学―『完全な人間をつくる』」という本を読んでいます。

闇のと書いてありますが、特にファンタジーな話ではありません。

発売されたのが2020年で最近の話であり、1940年代に活躍していた脳深部刺激治療を考案していた精神科医ロバート・ヒースの物語です。

まず、なぜ闇と使われるのかについて解説します。

脳手術への批判

脳に電気を流すと言うのは今注目されている治療法ですが、当時、特に1970年代には脳に何かをすることが批判されるようになってきました。

有名なのがロボトミー手術です。

脳の一部を切り取ることによって、鬱症状や幻覚をなくす手術。

1936年からその功績によりノーベル賞を受賞した1949年までの間に、アメリカでは2万例のロボトミー手術が行われたそうです。

そして、その対象者の多くは、戦争から帰還したトラウマを抱えた兵士。

脳の一部を除去する手術でもあるんですが、それによって感情がなくなってサイコパスのような人格になってしまったり、または優しくなくなったりしてしまったという事例があり、その手術は禁止されました。

今ではロボトミー手術は行われなくなっていますが、それに関連して当時、ヒースが脳に電極を埋め込んで手術していたことも批判されるようになっていました。

ロバート・ヒースの批判された実験

この本の初めでは、ヒースの実験が掲載されています。

当時ホモセクシャルだった患者のB-19さんに電極を埋め込みます。

電極によって性行動ができるのかどうか、ということを実験しました。

その実験が批判されて、ヒースの研究自体も探すのが難しいほどになってしまったと著者はいっていました。

そして、研究の結果はどうだったかというと、ホモセクシャルだった彼は異性と性行動ができたと言われています。

脳に電極を流すことによって成功しました。

1972年の論文に掲載されているようです。

 

倫理的な問題を山ほどかかえている実験。

性と人間行動は、宗教問題に絡んで来たり、人間のプライバシーにかかわってきます。

それが脳の電極によって左右されてしまうと言う発見です。

 

他にも本では脳の不快な感情部分を刺激することによって、突然患者が理由もなく目の前の医師を嫌いになってしまったり、危害を加えたくなってしまったりしていました。

電極は人間の感情を操ることができます。

神経外科は美容整形外科と同じ道をたどるのか。

さらに、問題になってくるのはこれからだ、と筆者は語ります。

脳の電極を操作することは、不快な症状を取り除くだけではないからです。

記憶力や認知を向上させます。

幸せな気持ちが続いて、それに伴う能力の発達もある、ということが認められています。

 

「神経外科は美容整形外科と同じ道をたどるのか」という疑問文がかかげられていました。

ある医師は語ったそうです。

「うつ病の症状は一つしかない。それは快感に関連するものだ」と。

だから、その部分を刺激すれば一時的に良くなるのだ、と。

失快感症患者の内側前脳束の神経線維は健常者のそれより細いことがわかったそうです。

では、細いから病気だとすれば、刺激することは治療なのか、ともなってくるんです。

うつ病の本質をめぐる討論としては、うつ病の本質とは心の痛みなのだろうか、それとも喜びを感じる能力の欠如なのだろうか、と。

これは今でもうつ病患者さんを分ける時に使われます。

能力の欠如の場合薬で改善することができるのですが、生活環境だった場合は外部からその悪い刺激を取り除かなくてはいけない。

つまり、後者は環境を変えることが優先されます。

 

そして、2011年に発表された論文タイトルで「幸福感に上限をもうけるべきか」という問いがあったと筆者はいいます。

脳に電極を埋め込んだ場合、幸福度の度合いを電極によって決めることができるらしいのです。

これによって、また哲学的な問いがでてきます。

幸せとは何だろう、と。

幸せな人生とは何だろうという問いです。

 

ある患者さんは脳に埋め込まれた電極を刺激しすぎて廃人のようになってしまいました。

それはドラック中毒患者と同じような症状で、刺激している脳の部分も似ている個所かもしれません。

本人は幸せの中にはいます。

ただ、本人だけで他の人はどうなのかといえば、その本人を病院に運んだりしているので周りはその限りにおいては幸せではないとも解釈できます。

 

本の紹介に戻ります。

ロバート・ヒースの物語

本で取り上げているロバート・ヒースは1950年以来20年にわたって数十名の患者の脳に電極を埋め込み、実験をしてきました。

それは、現代でも通じる電気医療です。

彼は弾圧されて、実験結果も忘れ去られていますが、2000年になってヒースを知らない科学者によって同じような実験が発表されているといいます。

彼は、初めは牢屋に繋がれていたような統合失調症患者の治療にあたっていました。

けれど、彼らは改善されたことを事細かに話すことができなかったそうです。

統合失調症というのは幻覚をみたりする症状も含まれています。

なので、対象がてんかん発作を引き起こす人に焦点があてられたり、痛みを慢性的に感じている患者になったりして、実験を重要視したために倫理的に問題になったと言われています。

当時、精神病はほとんど環境によるものだと信じられてきましたが、今では脳のほうに標準が当たっています。

 

実はヒースの実験は統合失調症患者だけにあてられていた時はそこまで批判されていなかったと言われています。

当時の患者さんというのは、ベッドに繋がれたままだったり、監獄のようなところに入れられていた人々。

しかし、対象が私たちが受けるのと変わらない人びとに対してもなされるようになります。

そうすると、私たちは危機を覚えます。

そこから倫理的に考えていく道をたどるようになるのです。

続きはこちら。
>>ロバートヒースの物語②

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