フランシスベーコン

哲学者フランシス・ベーコンと「知は力なり」|高校倫理1章2節2

このブログの目的は、倫理を身近なものにすることです。
今回は
高校倫理第1章
「現代に生きる人間の倫理」
第2節「科学・技術と人間」
2.哲学者フランシス・ベーコン「知は力なり」
を扱っていきます。
前回は「科学革命とは何か」を見てきました。
>>科学革命とは何か
ヨーロッパではルネサンスや宗教改革、自然科学の発達によって中世の人間観や世界観が否定されてきました。

ヨーロッパの中世思想への批判運動

  • ルネサンス⇒14世紀にイタリアで始まり、やがて西欧各国に広まったギリシア・ローマ文化の復興運動
  • 宗教改革⇒16世紀のヨーロッパで展開された一連のキリスト教改革運動
  • 科学革命⇒17世紀のヨーロッパに生じた自然科学分野における大転換

これらの運動は中世の思想(スコラ哲学など)を批判していきます。

過去の伝統にとらわれない新しい学問の方法を探求した一人が哲学者フランシス・ベーコン。

画家で有名なフランシス・ベーコン(1909-1992)もいる。
ここでは、哲学者のフランシス・ベーコン(1561-1626)について話していくよ
時代による背景説明
ルネサンス(人間の発見、人間中心主義)から自然と人間の切り離しが始まりました。
その頃に食事のマナーや文化などが重視されるようになって、しきたりや規則が守れない人を野蛮(動物的)と見なし始めます。
例えば、ルネサンス期には動物裁判も開始。
一つに、自然を人間が支配できるという価値観を育てていきました。
「人間>自然」
ルネサンスから始まったこの価値観が、科学革命で完成。
科学によって自然は解明できるものとして理解されていったのです。
つまり、動物裁判などは、人間が自然を克服する過程として合理的思想を含んでいたのだと解釈ができます。
その科学革命にいたる思想を説いた一人が哲学者フランシス・ベーコンです。
非合理的と言われるものとして、魔女裁判や奴隷制度とかあるよね。
文化背景を見ていくと、それは合理的にも感じられる
ブログ構成
  • ベーコンの「知は力なり」
  • ベーコンの思想

フランシス・ベーコン「知は力なり」

フランシス・ベーコン(1561-1626)は、中世のアリストテレス哲学と結びついていたスコラ哲学を批判しました。

スコラ哲学といえば、「哲学は神学のはしため(神学>哲学)」で有名。

死後の世界や宇宙の外側など、人間の理性が到達できない問題は神学として、哲学では扱えないものとしてきました。

つまり、宇宙の問題は神の問題だから人間に扱うことが不可能だ、と。

これにベーコンは批判します。

例えば、「洗濯機が壊れたから祈る!」という考えを、「洗濯機が壊れたから修理する!」という考えに変えた
ベーコンは自然を支配して人類の生活を改善するための力を新しい学問として求めることを説いたのです。
これが「知は力なり」という思考方法。
「知は力なり」に含まれるベーコンの思想
  • アリストテレス哲学の非生産性に嫌悪を感じていた。
    (当時は科学と技術を分けていて、技術は奴隷がやるものと蔑ろにされていた)
  • 人類の支配権は知識の中にある。
  • 自然哲学とその研究方法を変えることで、人類に有益な発明や発見をもたらし、人類の福祉を向上できる。
  • 中世の人々は「意見においては自然を支配しているが、必要に際しては自然の奴隷(ベーコンp86)」
  • 「自然>人間」⇒「自然<人間」の価値転換

ベーコンは中世のスコラ哲学を生活には役立たないと考えたのです。

つまり、「初めに真理ありき」で世界を説明しようとする中世の哲学や神学とは反対に、経験や実験による事前のしくみの理解(自然の征服)から人々の生活を向上させようとしました。

お肉は腐る前に食べる
腐らせないために冷蔵庫開発!
といっても、ベーコンはお肉は冷やすことで腐らないことを証明する実験の途中で肺炎にかかってしまった

「知は力なり」

「知は力なり」の力は、権力や幸せ、生活能力などの意味があります。

知は力なり⇒生活の向上は教義からだけではなく、経験や実験による自然のしくみの理解(自然の征服)から得られると考えた
(哲学用語図鑑p100)

ベーコンは知識の有用性を基礎として、学問を再建しようとしました。

アリストテレス哲学では暇だから哲学をしていたし、それが尊いとされた
ベーコン哲学では、学問が人を幸せにするから、学びを生活に生かそうとした。
逆に知が力と結びついたものの見方として「〇〇学は(生活に)役立たないからやらない」という解釈もでてきたのかも

ベーコンの思想

ベーコンはアリストテレスが論理学で説いた帰納法を再解釈しました。

帰納法

ベーコンが説いた帰納法⇒個別の事実や経験から一般的な法則を導く方法

帰納法では経験(実験)によりできるだけたくさんのサンプルを集め、一般論を導き出します。

例えば、

  • あのウサギはニンジンが好き
  • このウサギもニンジンが好き
  • そのウサギもニンジンが好き

というサンプルをたくさん集めます。

そして、それゆえに「ウサギはニンジンが好き」という一般論が出てくるのです。

アリストテレスの学問はその方法が抽象的であり、新しい発明や発見に対して全く無効であるとベーコンは考えました。

アリストテレスの思考法だと、新発見があまりなかった

なので、帰納法によって新しい発見や発明をできるようにしたのです。

学問の正しい姿とは、人間の精神と自然の事物とが密接に交わっている状態をいうのであり、そういう時代は、人間の堕罪以前の原初時代に存在したというのがベーコンの確信であった。

-『大革新』(ベーコンの著作)は、人間と自然とが密接に交わっていた原初の時代の精神に復帰し、学問が新たに出発しなおすことをめざしたものである。(ベーコンp136,137)

ルネサンスがプラトンやアリストテレスを参考にしたとすれば、ベーコンはソクラテスより前の哲学者を参考にした!
寓話の時代と言われているけれど、当時の自然哲学者は合理的思考をしていた。
例えば、デモクリトスは原子論を説いてる
ベーコンはイギリス経験論者とも言われています。
イギリスでは知識や観念はすべて五感(聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚)を通じて得た経験によるもので、生まれ持った知識や観念は存在しないという考え方が発展したのです。
なので、帰納法で正しい知識を身につけられると考えました。
ベーコンは特に「読み書きのできる経験」が大事と説いたよ
次に、ベーコンのイドラ説を紹介。

イドラ

なぜ前の哲学に戻る必要があるのかと考えた時、そこにはイドラがあるとベーコンは考えました。

イドラ⇒思い込みや偏見

新しく唱えた帰納法(経験主義的)でも、イドラがあると正しい知識の修得を妨害すると考えたのです。

現代心理学でいう認知バイアスと似ているかも
ベーコンが述べた4つのイドラ。(哲学用語図鑑参照)
  1. 種族のイドラ⇒人間という種族に共通にそなわった感覚による偏見
    (目の錯覚や擬人化など)
  2. 洞窟のイドラ⇒育った環境による、狭い考え方からの偏見
    (個人的な体験、家庭環境や読んだ本など)
  3. 市場のイドラ⇒人が集まるところでの聞き違いや伝言ミスによる偏見
    (インターネット情報やうわさ話など)
  4. 劇場のイドラ⇒有名人や偉い人の言葉を信じてしまう偏見
    (人気番組、偉い人の言葉など)

ベーコンはこれらが正しい知識の修得を妨害すると主張しました。

ベーコン自身も天動説を信じていたり、イドラから抜け出せていないという批判を受けていた

ベーコンの時代背景

ルネサンスから科学革命までの間にあたるベーコンの時代。

この時代の特徴を「動物裁判」から抜粋します。

動物裁判は、動物に人間の法を適用する。

これを平気で実践しみまもることのできる感受性は、‐その時代固有の感受性以外のものではありえないであろう。

それ以前の、動物や自然の霊力を真剣に畏怖していた時代には、それはだれにもうけいれられないだろう。

また、それ以後の、風景を自然社会の論理から解きはなち、風景をそれにむかいあう個人が風景のためにのみ愛好・描写する時代、そして科学的客観性で自然をみて解釈しつくそうという時代にも、それは存続しえないのである。
(動物裁判p178)

つまり、時代による自然観の大きな転換があった時期だと考えることができます。

現代は人間が手を加えすぎた自然に逆に人間が困るという現象が起きていて、自然観の転換の必要性を迫られているね
ベーコンは、学問によっていろいろな機関を設けて、人々の福祉を向上させようとしました。
「未来の時代のために、より純粋な真理の種子をまき、その大事業を開始するという役割をはたすことができるならば、わたくしは満足する」
(ベーコンp177 ベーコンの言葉より)
自分の主張に弱点があることは認めつつも、その出発点になることをベーコンは目指したのです。
ベーコンは政治的にもとても出世した人。
でも、私生活は愛に恵まれなかったとも
ベーコンの生きた時代の100年後に刊行された『百科全書』は、そのインスピレーションの筆頭にベーコンを置くと述べています。
また科学革命の筆頭役となったニュートン(1643-1727)は「自分は仮設を作らない」と述べ、ベーコンの帰納法を試みました。
ベーコンは「(その時代の人々の)想像の魔力から理性を解放させた」とも解釈できます。
今回はフランシス・ベーコンをやりました。
次回はデカルトについて取り扱います。
フランシスベーコン
最新情報をチェックしよう!
>けうブログ

けうブログ

哲学を身近に