第1節「青年期の意義」 ④パーソナリティの形成と青年期の課題
>>青年期の課題と心理学
- パーソナリティとは
- 性格の類型論
- 性格の特性論
- 生きる意味
パーソナリティとは
パーソナリティは性格に社会的に獲得した性質をあわせたものです。
性格(キャラクター)とは感情による行動傾向のこと。
しかし、特に厳密な規定があるわけではなく、パーソナリティや人格を性格と呼ぶこともあります。
現代におけるパーソナリティの重要性(この段落は教科書からは外れます)
「遺伝」と「環境」と言われていますが、現代では「遺伝」の強さが行動遺伝学の研究によってあきらかになってきました。
橘玲さんのベストセラー「言ってはいけない」にはそのことが記述されているのです。
「言ってはいけない」の遺伝に関する個所を、元になった本の著者安藤さんがかいつまんで要約しています。
行動遺伝学と進化心理学の知見をふまえて、「ベルカーブ」と同じように現代社会の格差や不平等の根底に生物学的な根拠があることを、「ベルカーブ」ほど分厚くない新書の形でわかりやすく書いています。「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(安藤寿康)
つまり、生まれつき足の速い人は練習しなくても早く走れる。
生まれつき足の遅い人はがんばっても足の速い人に追いつくことが難しい。
追いついたとしても、生まれつき足の速い人が練習すればそれを追い抜いてしまう。
このことを遺伝の観点から説明したのです。
才能の発見とは、まだ発現していないものを発現させることよりも、すでに発現しているものの中に文化的・社会的価値を見出していくことだと思うのです
(日本人の9割が知らない遺伝の真実)
パーソナリティは現代心理学ではどのように分析されているのでしょうか。
パーソナリティ(性格)の類型論と特性論
パーソナリティを理解するには、一般に「類型論」と「特性論」によるアプローチが用いられます。
- 類型論⇒性格を質で分離
- 特性論⇒性格を量で分離
類型論から見ていきます。
類型論
類型論を唱えた一人は精神分析学者ユングです。
精神分析の祖フロイトの弟子でもあったユングは、世界各国に似たような模様や似たような神話があることを発見。
集合的無意識の領域があるのではないかと考えたのです。
それを人の心に応用。
人間には「内向・外向」があると説きました。
ユングによる内向・外交
- 内向
エネルギーが自分の内に向かうタイプ
自分の内なる判断基準を重視
消極的で社交的ではないが一人でも平気 - 外向
エネルギーが自分の外に向かうタイプ
自分の外にある判断基準を重視
明るく社交的だが、判断基準が周囲に左右されやすい
クレッチマーによる体系と気質
類型論は他にもクレッチマーが説きました。
性格(気質)と体型による分類ができると説いたのです。
クレッチマーによる体型と性格(気質)
- 細身型⇒分裂気質
- 肥満型⇒躁鬱(そううつ)気質
- 闘士型⇒粘着気質
実を言えば、性格と体型による分類法は、現在ではあまり支持されていません。
- どの類型にも属さない人を無視してしまう
- 性格を固定的で変わらないものとしてみてしまう
この欠点を補っているのが量で分析する特性論です。
特性論
特性論の代表は「ビックファイブ理論」。
多くの心理学者に指示されている理論で、ゴールドバーグらが唱えました。
ビックファイブ理論の特性因子は5つ
- 神経質傾向(情緒の安定性)
- 外向性
- 開放性
- 調和性(協調性)
- 誠実性(堅実性)
この一つ一つの特性によって、向き・不向きが見えてきます。
例えば、18世紀半ばに始まった産業革命によって、決められた作業を正確にこなす労働者が求められるようになりました。
ビックファイブの中の堅実性です。
堅実性の訓練システムを日本の教育で確立させた、もしくは元から日本人は堅実性が高かったので、社会的・経済的に当時の日本が急成長できたのではないかと言われています。
余談ですが、パーソナリティはAIによっても分析されていると言われています。
インターネットに自分の興味のある記事や広告が出てくるのは、あなたがそのようなパーソナリティだと分析されているからかもしれません。
パーソナリティと生きる意味
青年期の課題であるアイデンティティの確立に対して、「自分は何をすればよいのかわからない」、「本当の自分がわからない」といった精神的な危機(アイデンティティの危機)におちいることを「アイデンティティの拡散」と言います。
その一つは、無関心、無感動、無為にすごすといった学生に特有な無気力症スチューデントアパシーです。
他にも、現代青年の課題としてフリーターやニート、パラサイト‐シングルなどの問題も取り上げています。
教育学から見る問題解決
アメリカの教育学者ハヴィガーストは、青年期の発達課題についての指針をあげました。
洗練された人間関係、社会的な役割の理解、情緒的な自立、経済的な自立、社会的責任のある行動、価値や倫理の体系学習から適切な科学的世界像の形成、などです。
心理学からみる問題解決
キャリアからみる問題解決
「生きがい」を考えることによる問題解決
精神科医神谷恵美子は著書「生きがいについて」でこう語ります。
「自己の生存目標をはっきりと自覚し、自分の生きている必要を確信し、その目標にむかって全力をそそいで歩いているひとーいいかえれば使命感に生きるひと」が最も生きがいを感じる人である
さらに、生きがいには「はりあい」という意味も含まれると述べ、人間の持つ最も内在的な欲求として、自分の存在が他人にも受け入れられることを願う「反響への欲求」をあげています。
「生きる意味」を考えることによる問題解決
オーストリアの精神医学者フランクルの著書「夜と霧」。
「夜と霧」は第二次世界大戦中にナチス・ドイツのユダヤ人強制収容所に収容され、極限状態を生き抜いた体験をまとめた本です。
自分の未来をもはや信じることができなくなった者は、収容所内で破綻した。
ーここで必要なのは、生きる意味についての問いを百八十度方向転換することだ。
ーもういいかげん、生きることの意味を問うことをやめ、わたしたち自身が問いの前に立っていることを思い知るべきなのだ。
ー考えこんだり言辞を弄することによってではなく、ひとえに行動によって、適切な態度によって、正しい答えは出される。
つまり、いかなる状況下にあっても、人間らしい尊厳に満ちた態度で生きていくことに人生の意味があると語っています。
>>自然科学とソフィスト