哲学から科学とは何かを考えていきます。
科学を哲学的に考察する分野を、科学哲学といいます。
私たちは日ごろから科学という言葉に慣れ親しんでいます。
けれど、これは科学なの?
と疑問に思うことは多々あります。
具体例を通して科学とは何かを考えていきましょう。
(続 哲学用語図鑑 参照)
科学とはー哲学からの視点
科学とは、広い意味ではほぼすべての学問のことを指します。
例えば、自然科学や人文科学、社会科学など、この場合だと心理学や哲学も科学に入ります。
最も狭い意味では、一般的に自然科学のことを指します。
自然に見いだされる普遍的な法則性を探究する学問のことです。
ここで、疑問が出てきます。
広い意味と狭い意味が出てくるなら、何をもって科学と言えばいいのか。
科学哲学は、科学と非科学の線引きを考えるために生まれました。
具体例を出します。
しかし、今の理論も後から間違いだと指摘されることがありえます。
哲学にも科学的な部分と、非科学的な部分があります。
近代の哲学は言語論的転回とともに科学的なものだと見られていますが、それ以前の哲学においては形而上学(自然学に先立つ学問とされた)も取り扱われています。
これらの科学と非科学の線引きはどのように考えたらいいのでしょうか。
その謎に答えたのが科学哲学です。
科学哲学は論理実証主義から始まったと言われています。
では、論理実証主義を見ていきましょう。
科学哲学の始まり「論理実証主義」
論理実証主義は、1920年代にウィーン学団による運動から唱えられました。
その運動がでてきた経緯は、カール・マルクスが経済学で説いた資本論や、心理学の祖であるフロイトが説いた精神分析などが科学だと語られていたからです。
つまり、根拠が不確かだと思われる論理が科学になっていました。
これを受けて、科学と非科学の線引きをつくりました。
このような線引きです。
科学的⇨実験や経験などによって検証できる命題
非科学的⇨検証できない命題
これによって、社会科学や人文科学や、伝統的な哲学の命題は検証できない命題として非科学的とされました。
検証とは、実際に調べて仮説が正しいのか実証することです。
自然科学や数学、分析哲学の命題などが科学的とされました。
具体的にみていきます。
けれど、相対性理論や量子力学は検証可能なのでしょうか。
実は検証できる理論はありません。
理論は様々な例外の可能性があるからです。
検証可能か否かの区別の仕方だと科学に属する理論はなくなってしまうのです。
そして、心理学や哲学、あらゆる学問においても、その中には理論を多く含みます。
検証できるという分け方では、現代でも科学的と見られているものが、非科学的なものになってしまいます。
一見、科学と非科学の線引きができたように思われましたが、その分け方ではほとんどが非科学的なものになってしまいました。
しかし、検証を繰り返すことによって、新たな科学的事実が発見されています。
「科学的事実」は新事実(反証)が発見されることによって、更新されてきたのです。
なので、検証は大切だと科学者は考えます。
論理実証主義の欠点を補うために出てきたのが、反証可能性です。
では、反証可能性をみていきましょう。
科学と非科学の区別の仕方「反証可能性」
科学と非科学の区別をカール・ポパー(1902~1994)は反証可能性によって説明しました。
反証可能性とは、嘘であることが証明される可能性を言います。(哲学用語事典)
ポパーによると、理論は嘘であることを証明できるときにのみ、科学的だと言うのです。
例えば、白鳥は白いというのは正しいとされていました。
けれど、1600年代に黒い白鳥が発見されました。
黒い白鳥の発見により、この説が嘘だとされたのです。
そして、黒い白鳥もいるという説が新しい理論になりました。
けれど新しい理論になることで新たな疑問を生みます。
もしかしたら未来には赤い白鳥が現れる可能性あるのではないか、と。
論理実証主義によって科学だとされる定義では、未来に渡ってくつがえされる可能性があるものばかりでした。
なので、ポパーは科学の定義をこのように決めました。
科学的⇨今のところは反証されていない、反証できる理論
非科学的⇨反証できない理論
もし未来に渡って相対性理論や量子力学が反証されたとしても、反証できるからこそ科学的であると言えます。
そして、このポパーの分け方では反証できない理論の例を上げていました。
社会科学、無意識、血液型占い、オーラ、霊能力などが続哲学用語図鑑であげられていました。
反証可能か否かを具体的にみていきます。
反証されたものも非科学的!
なので、ここでいったん科学哲学を区切ります。
まとめると、ここまでの科学哲学ではポパーの反証可能性が科学と非科学の線引きとして使われてきました。
反証可能性では、狭義の意味での科学について述べることができました。
残るは、広い意味でのすべての学問についての科学です。
どのような経緯から、すべての学問が科学と言われているのでしょうか。
これを見ていくために、新科学哲学を見ていきます。
新科学哲学とは
新科学哲学とは、科学を相対的なもの、観察できないものは実在しないと捉える立場です。
ある時代や分野において支配的な物の見方や捉え方によって、科学の定義は変化すると言う立場です。
パラダイムはその時代の思考の枠組みです。
パラダイムでは理論的対象をつじつまが合うから理論に採用しているという考え方です。
(理論的対象⇨実際に観察できるわけではなく、理論上存在すると考える対象)
実は私たちはどこかに誤りがあるかもしれない理論的対象を理論に扱っているのです。
この立場に立つと、広い意味で学問を科学と呼ぶことができます。
人文科学や社会科学が科学と呼ばれている理由説明にも使えます。
では、理論的対象から科学哲学と新科学哲学の違いを見ていきます。
理論的対象からみる科学哲学と新科学哲学の違い
電子や素粒子など観察できないものは、科学者たちが便宜上あると考える対象です。
すべてが目に見えるわけではなく、実験と観測から、推測してあると考える対象を理論的対象といいます。
推測に対しては、反証というよりは、支持するかしないかになります。
理論的対象は便宜的な装置にすぎないと考える立場⇨反実在論
科学哲学は科学的実在論の立場であり、科学を絶対的なものだと捉えました。
新科学哲学は反実在論の立場で科学を相対的なものだと捉えました。
新科学哲学⇨反実在論
どちらの立場かによって、科学の定義も変わってきます。
科学とは-まとめ
科学とは、広い意味ではほぼすべての学問のことを指します。
最も狭い意味では、一般的に自然科学のことを指します。
科学哲学は、科学と非科学の線引きを考えるために生まれました。
科学哲学の始まりは、論理実証主義だと言われています。
論理実証主義では、科学的とは実験や経験などによって検証できる命題のことを言います。
この批判をしたのが、反証可能性を説いたポパーです。
ポパーによれば科学的な理論は「今のところ反証されていない理論」です。
そして、これを批判した一つが新科学哲学です。
科学を相対的なもの、観察できない対象を実在しないものだと捉える立場です。