ハイパーリアルとは、オリジナルと模像の区別がつかない現代のような状況をいいます。(哲学用語図鑑)
社会学者ジャン・ボードリヤールが唱えました。
「消費社会における実体は、差異への欲望」
このように述べたボードリヤールの見解を詳しく見ていきます。
オリジナルと模像の区別とは?
差異への欲望とは何か?
ベストセラー「全体主義の克服」(2020.8)でも、同じ議題があがっているので後にふれます。
ハイパーリアルを知ることで、私たちがどのような社会に生きているのかを見ていきましょう。
ハイパーリアルな現代とは
ジャン・ボードリヤール(1929~2007)はフランスの社会学者です。
ボードリヤールはオリジナルと模像の区別がつかない現代のような状態をハイパーリアルと呼びました。
オリジナルと模像の区別がつかないとはどういうことでしょうか。
まずはオリジナルを詳しく見ていきます。
オリジナルとは
ここでのオリジナルは現実のことをいいます。
例えば、私たちが絵を描くとします。
そこで実際に見ているものはオリジナルです。
通常、私たちは何かを模像するときはオリジナルを参考にします。
実際に見ている場合は、何がオリジナルで何が模像なのかすぐに言えますね。
目の前の背景がオリジナル。
それを真似すれば模像です。
お庭=オリジナル
お庭の絵=模像
では、このような場合はどうでしょうか。
オリジナルのない模像
オリジナルのない模像を見ていきます。
ここで、初めに述べた「差異」がでてきます。
「差異」はオリジナルがあるのでしょうか。
まずは「差異への欲望」とは何かを見ていきましょう。
差異への欲望とは
ボードリヤールは消費社会において個人の実体は、差異への欲望だと言いました。
実体とは、何にも依存しないでそれだけで存在するモノのことです。
模像は差異
差異にはオリジナルがありません。
オリジナルがないので模像になります。
商品と商品との差異は、目に見えない情報が価値を決めています。
値段が高くても質が低いもの、その逆もあります。
物だけではありません。
人を見るときに、学歴を見たり、SNSのフォロワー数などでも私たちは人を判断しています。
実際に接してその人を判断するのではなく、情報によって無意識にその人を判断してしまっているのです。
私たちは日々、情報を得ています。
オリジナルに触れることなく、差異によって判断することができるのです。
差異のオリジナルは存在していないけれど、差異は存在しています。
存在している以上、それが実体になるのです。
差異のオリジナルはないけれど、実体がある状態です。
オリジナルと模像の区別とは
差異への欲望が消費社会の個人の実体であることを見てきました。
つまり、オリジナルでないものが実体になっています。
(ちなみに、ボードリヤールはオリジナルのない模像をシミュラークルと呼びました。)
オリジナルが現実だとすると、模像は非現実です。
現実ではないならば、非現実ですね。
すると、オリジナルと模像の区別がつかなくなってきます。
実体=それだけで存在するモノ
オリジナル=実体
⇩
オリジナル=模像
この理論から言えば、「差異への欲望」が実体だと仮定することが間違っていると言えます。
現実では差異はオリジナルでもなく、模像でもありません。
しかし、実際に私たちが差異を実体だと思えるなら、ここでオリジナルと模像の区別がつかないという混乱が起こります。
なぜ混乱が起こるのか。
それは、私たちが消費社会に組み込まれているからです。
組み込まれている差異への欲望が実体だと納得しやすくなります。
納得しやすいので、ハイパーリアルと名づけられています。
ハイパーは「上」や、「超越」などを意味する英語の接頭辞です。
スーパーが超だとすると、ハイパーはその上の極超です。
超越した現実。
この言葉自体も現実なのか非現実なのかがわからなくなりますね。
このことは、どのように現実に作用しているのでしょうか。
私たちはよく考えを変えます。
そのことに焦点を当てて見ていきます。
ハイパーリアルで私たちが考えを変える理由
私たちはよく考えを変えます。
本を一冊読み終えて、価値観が変わった!という言葉はよく耳にします。
人によっては自分の根底を変えるような変化がおこります。
けれど、価値観はそれほど多く変わるものなのでしょうか。
私は以前、パラダイムシフトという言葉を紹介しました。
パラダイムシフトとはパラダイムが変換されることを言います。
パラダイムとは、一時代の支配的な物の見方や時代に共通の思考の枠組みのことです。
何か大きな変化が起こったとき、例えば、天動説→地動説のような土台からの変換をいいます。
それは、歴史で見ればなかなか訪れない変換です。
哲学用語でも、転回という言葉で表されますが、一時代を通してやっと浸透していくような考え方です。
そんなめったにない価値観の変化が個人に高頻度で起こるのはなぜか。
それは、私たちがハイパーリアルな現代に生きていることを表しているからである、と捉えることができます。
それは、現代が差異への欲望という実体を土台にしていることを表します。
実体を具体的に言えば、お金持ちがいいとか、よりキレイでいたい、といった差異から生じた価値観です。
実体にしているのですが、その実体にはオリジナルがありません。
オリジナルではないので、いくらでも土台は変化していきます。
他人からの一言でも変化します。
私たちは消費社会に組み込まれているのでその不安定な土台に立っているのです。
例えば、フェイクニュースを本当だと思っていて理論を構築しても、それがフェイクだとわかれば、また構築していく必要がでてきます。
そして、変化はいくらでも起こることが前提になってきます。
では、具体的にみていきましょう。
ハイパーリアルの具体例
私たちはよく、シミュレーションをします。
具体例からみていきましょう。
シミュレーションからみる具体例
天気予報で雨が降ると言っていたから傘を持って行く。
次世代に流行るのはタピオカだから、タピオカ屋を開いたら繁盛する。
シミュレーションとはこのようなものです。
しかし、情報や予想は自分がオリジナルに基づいて決めたわけではありません。
いつでも、その元を疑うことができるのです。
テレビで言ってたもん。
差異への憧れからの具体例
さらに、「全体主義の克服」では、飛行機のクラスに触れていました。
飛行機でエコノミークラスに乗る人は、ビジネスクラスを目指すとマルクス・ガブリエルはいいます。
なぜなら、エコノミークラスに乗る人は、ビジネスクラスの席を通っていくからだそうです。
自分より優遇されているサービスを羨ましく感じます。
サービスの差異による価値観が発生します。
そして、ビジネスクラスの人は、ファーストクラスを目指します。
ファーストクラスの席は、ビジネスクラスの人には見えません。
見えないということが差異をうんで、憧れを抱くのだと述べています。
つまり、見えないものも土台になりやすいのです。
さらに土台は不安定になります。
そして、ファーストクラスがトップではないと続きます。
プライベートジェットが、その先にはエアフォースワンがあると言います。
エコノミークラス⇨ビジネスクラス⇨ファーストクラス⇨プライベートジェット⇨エアフォースワン
これらは差異への欲望です。
人は知らないものに恐怖を感じるとともに、知らない物に憧れを抱きやすくなります。
でも、ヒーローはかっこいい!
モデルに近づこうとする、
教養のある人を目標にする、
インフルエンサーになろうとする、
など見えない憧れの対象は数多くあります。
意識することは倫理に結びつきます。
ハイパーリアルとはーまとめ
ハイパーリアルとは、オリジナルと模像の区別がつかない現代のような状況をいいます。
ボードリヤールが唱えました。
なぜ区別がつかないかというと、消費社会の実体が差異への欲望と仮定できるからです。
差異にはオリジナルがありません。
しかし、差異は存在しているのです。
オリジナルがないことは、私たちの価値観が変化しやすいことを表します。
パラダイムシフトのような価値観の変化が、個人には頻繁に起こってくるのです。
消費社会にいる私たちはそこに組み込まれています。
しっかりとした土台を持つには、土台に意識的になる必要があります。
土台は私たちの価値観によって崩れることを自覚しておく必要があります。