「人間としての自覚」
第1節「ギリシア思想」
⑤ヘレニズム時代の哲学
>>「万学の祖」アリストテレス
- ヘレニズム時代とは
- ストア派
- エピクロス派
- 二つの思想の具体例
ヘレニズム時代とは
ヘレネスがバルバロイ(異民族を呼んだ言い方)を支配することはあってもバルバロイがヘレネスを支配することなどなりませぬ 母上
- ポリス(小さな共同体)がなくなった緒個人の哲学
- 哲学の目的は真理の追究ではなくなる
- 科学的研究からの分離
(「ヘレニズムの思想家」まとめ)
ポリスにしばられない世界市民(コスモポリーテース)としての生き方が求められました。
>>認識論的切断とは
ヘレニズム時代「エピクロス派」
エピクロスは快楽主義を主張しました。
エピクロス派は創始者エピクロスの名前がそのまま使われています。
エピクロスのアタラクシア
エピクロスはデモクリトス「万物の元は原子」(原子論、唯物論)を発展させました。
人は原子からできているのだから、死んでしまえば感覚は消える。
つまり、魂の死後の存続を否定したのです。
アタラクシアが快楽主義と呼ばれる理由(教科書外)
エピクロスの快楽は永続的・精神的なもの。
それは求めるもの(主義)でもあります。
例えば、
- 太りたくないのでお菓子を置いておくのをやめる
- 不安になるので恋人を作らない
- 自分に必要な金額を知り、それをただ稼げばよいようにする
- 大勢の前で注目されないようにする
つまり、自分が欲望を発揮してしまいそうな環境を遠ざける努力を必要とします。
次に、エピクロス派に反対したストア派を見ていきましょう。
ヘレニズム時代「ストア派」
ストア派の創始者はゼノンです。
「自然にしたがって生きる」ことが人生の目的であると主張しました。
人間は自然全体(理性の支配する世界)の一部として、自然によって理性が与えられていると考えたのです。
理性的な生き方は自然にしたがった生き方
ストア派の自然法
ストア派は禁欲主義と言われています。
情念を克服した無情念(アパテイア)を実現すると、欲望から解き放たれた境地に達することができると説くからです。
ストア派の周りは、普通に欲がある状態。
例えば、美味しいもの、お金、もっと楽ができるといった環境です。
しかし、それを理性によって抑え込む生活(禁欲)をすることで、自然(理性)と調和できるようになると言うのです。
>>社会契約説の発生
ストア派のエピクロス派への批判(教科書外)
ストア派後期のエピクテトスの思想からストア派を見ていきます。
ストア派の主張は自然に従うこと。
つまり、あなたが軍師ならばその仕事をまっとうするし、あなたが奴隷ならばまたその仕事をまっとうします。
エピクテトス自体、出身が奴隷でした。
奴隷身分であるならば、奴隷としての仕事を精一杯こなします。
エピクロス派のように欲を発揮してしまいそうなところを避けたり、隠れて生きたり、といった努力をストア派は否定したのです。
生まれつきの身分や容姿など、自分次第ではないものを軽く見ろ、と説きました。
「君ができること、まさにそのことに励めばよい」という思想です。
イタリアの漁師
ネットで人気になったと言う「メキシコの漁師」の話(簡略化)をエピクロス派とストア派との比較として用いてみます。
- エピクロス派=メキシコの漁師
- ストア派=旅行者のエリートコンサルタント
メキシコの漁師はとても活きの良い魚を旅行者に売りました。
旅行者「すばらしい魚だね!どのくらい漁をしていたの?」
漁師「すぐに採れたよ」
旅行者「もっと魚を採らないの?他の時間は何をしているの?」
漁師「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」
旅行者はハーバード大学卒業の経営コンサルタントでした。
旅行者「もっと漁の時間を増やせばお金が増えるよ。それでお金持ちになって、漁用の船も買える。君は才能があるんだから、もっとその才能を活かすべきだよ!」
漁師「お金持ちになったら、君は何をしたいの?」
旅行者「そうしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、日が高くなるまでゆっくり寝て、日中は釣りをしたり、子どもと遊んだり、奥さんとシエスタして過ごして、夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって過ごすんだ。 どうだい。すばらしいだろう?」
エピクロス派の漁師は自分の足るところを知っています。
もっとその才能を活かして働くことはせずに、自分にとって最小限のお金を手に入れて、自分にとっての永続的な快楽を求めます。
もし、漁師がストア派ならば、自分の職務をまっとうして漁師としてさらに漁業に励もうとするからです。
ストア派の旅行者は自分の職務をまっとうしています。
コンサルタントという仕事をして、それが結果となって旅行ができるような状態です。
自分の才能を活かして、多くの人にお金稼ぎの内容を教えています。
漁師の住んでいる地域では、飢餓者がいたとします。
漁師が魚をもっと取ってくれていたら、助かるのに、と。
しかし、漁師は自分のアタラクシア(魂の平静)に関心があるので、まわりのことは気にしないのです。
漁師という役を与えられているのに、それを精一杯はこなしていません。
- 神様によって助かるかどうかは決まっている(ストア派も運命に従う)
- 決まっていて、それを示すものはお金や富である
- お金持ちは助かる者だ
- 自らに課せられた労働に励んだ結果、お金持ちになる(自然にしたがって精一杯生きる)
- エピクロス派⇒自然法則は絶対ではないから、自分の快楽を求める
- ストア派⇒自然法則は絶対であり、従っているとそれが幸せにつながる
脇役のままでも、精一杯生きなさい。
ストア派エピクテトスの思想が刺さる…
ヘレニズム時代の2つの哲学
なぜ倫理で「エピクロス派」と「ストア派」の二つをとりあげるのか、という問いの一つは現代とのつながりです。
エピクロス派はデモクリトスの思想(原子論)を発展させ伝えていきました。
原子という思想は現代科学でも重要な概念になっています。
ストア派は自然法思想の源流の一つです。
自然権の主張によって社会契約説、人権の獲得などにつながっていきます。
>>キリスト教誕生の物語
「ヘレニズムの思想家 岩埼允胤」「哲学と宗教全史 出口治明」「新しく学ぶ西洋哲学史 2022」
「奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業 荻野弘之 かおり&ゆかり」「哲学用語図鑑」