「人間としての自覚」
第1節「ギリシア思想」
③プラトン
>>ソクラテスとソフィスト
- プラトンの哲人政治
- プラトンのイデア
プラトンの哲人政治
倫理学の祖はソクラテスと言われていますが、それを大々的に世に広めたのが弟子のプラトン。
ソクラテスは死をもって「知」への愛(哲学)を見せつけました。
それを本にして後世に語りつげるようにしたのがプラトンです。
ソクラテスの弁明
ソクラテスの裁判を描いた本がプラトン著作「ソクラテスの弁明」。
当時は民主制で、裁判によってソクラテスの死刑が決まってしまいました。
市民の力が強かったのです。
しかし、当時の裁判の内容はと言えば、ズタズタ。
ギリシアの民主制による市民の圧倒的な力は、情緒や嫉妬やその時々の気分に左右される不安定なものでした。
ソクラテスは情にうったえるようなことは一切しませんでした。
妻や子どものことなど、同情を誘うようなことはわざと言わなかったのです。
ソクラテスの弟子プラトンは当初、政治家を志していたのですがこの裁判で気が変わります。
この民主制自体を変えていかなければいけないと考えました。
プラトンの哲人政治
哲学者たちが国々で王になるか、あるいは、いま王とよばれ、為政者とよばれている人々が真実かつ十分に哲学するのでないかぎり、
ー国にとっても、そして人類にとっても、禍いが止むことはない。
プラトン「国家」
プラトンの哲人政治思想を見ていきましょう。
プラトンは魂(プシュケー、真の自分)を3つにわけます。
「理性、気概(きがい)、欲望」
そして、それら3つは四元徳(知恵・勇気・節制・正義)に関係すると説きました。
四元徳
- 理性⇒知恵
- 気概⇒勇気
- 欲望⇒節制
- 理性が気概と欲望を統御して秩序を保つ⇒正義
魂を基準とした構成を政治体制にあてはめます。
国家の三階級は統治者・防衛者・生産者というようなピラミッド構造です。
国家の三階級
- 知恵の徳を発揮⇒統治者
- 勇気の徳を発揮⇒防衛者
- 節制の徳を発揮⇒生産者
例えば、一つの魂は3つの気質「理性、気概、欲望」をそれぞれ持っているけれど、理性気質が多い人だと「知恵の徳」を発揮しやすいから統治者に向いている、と考えます。
もし欲望気質の人が統治者になったとしたら国に地位や権力やお金を求めるし、気概気質の人が統治者になったとしたら国を強くすることを求めるという考えです。
国家全体の秩序と調和が保たれるとき、正義の支配する理想国家が実現すると考えました。
秩序がとれない人は処刑
(プラトンは一人称では自説を語らなかった)
左翼思想と現代(教科書外)
プラトンの民主制批判は現代の政治問題にも応用できます。
例えば、「資本主義⇒社会主義」といったベクトルに左翼思想が見られるからです。
左翼(急進的に世の中を変えようと考える人たちの特徴)は、まず何よりも理性を重視する姿勢があると言われています。
人間が理性で社会を人工的に改造すれば、理想的な社会に近づくと信じているのです。
>>民主主義とは何か、なぜ今取り上げられるのか
プラトンのイデア
先にプラトンの哲人政治を扱いましたが、プラトンと言えばイデアです。
イデアがどれくらい凄いのか。
例えば、現代の哲学といえばカント(1724-1804)。
現代哲学はカントから学べばよいと言われるほどの偉人ですが、カントの「物自体」という思想はイデアのことを言っている、と哲学者ショーペンハウアーは述べています。
さらに、自分の語る「意志」もイデアに近いとも。
>>ショーペンハウアーのイデアとプラトンのイデア
まずはざっくりとイデアについて学んでみましょう。
ざっくりと学ぶイデア
プラトンはイデア論とよばれる独自の考え方にもとづいて理想主義的な哲学を展開しました。
ソフィスト(相対主義「真実なんてない」)に反対する形でイデア論を登場させてみます。
一般的に言われているイデア論をよく理解したい方はこちらを参照にしてください。
教科書にある洞窟の比喩を説明しています。
>>プラトンのイデア論をわかりやすく
ざっくりとイデア論を使った弁論をしてみます。
イデア論者「このお湯は熱い」
相対主義者「あなたにそう感じるだけであって、私にはぬるいかもしれない」
イデア論者「これに手を入れるとみんなが火傷します。火傷するお湯は人間にとって熱いと言うことになりませんか」
自分だけの主観があるだけだとしたら、「熱い」と言う共通理解があることが説明できないのです。
ソフィストの相対主義はただ「絶対的な真理」なんてない、と述べるのですが、そうなるとなぜみんなが共通して「熱い」と言えるのかという説明ができません。
ここでは手を通じた感覚(熱さ)ではなく思考能力としての理性(一定温度で火傷する)によってとらえられるとして、そのような普遍的なものをイデアとよびました。
プラトンは永遠不変の実在というイデアがあると述べたのです。
彼はイデアの世界にはその頂点に善のイデアがあって、それが他のイデアを統一し、秩序づけているとしました。
だって、一匹のネズミの雄雌同士をケージに入れておいたら5匹になったもん!
>>対象領域とは
イデア論とエロス
プラトンはソクラテスの「知」への愛(哲学)を言語化します。
プラトンの二世界説(二元論)
- イデア界⇒イデアが存在する世界
- 現象界⇒私たちが住んでいるこの世界
プラトンによれば、私たちの魂はこの世に生まれる前はイデア界にいました。
魂はイデア界でもろもろのイデアを明瞭にとらえたことがあるのです。
しかし、魂はこの世に生まれる(現象界に移行)することによって肉体という牢獄に閉じ込められ、イデアの記憶があいまいになってしまったと述べます。
魂は生まれる前にはイデアをとらえていたので、自分に足りない部分を追い求めようとします。
イデアに憧れてそれを捕らえようとする哲学的衝動をエロースと述べたのです。
私たちが正しさや完全さ、愛や正義を理解できるのはイデアを思い出す(想起する)から。
ソクラテスの「無知の知」(不知の自覚)が、自分の中にある知を引き出して自覚させるという形式(助産術)なのも、イデアによって説明できるのです。
>>ショーペンハウアーにおける愛とプラトンの愛
>>アリストテレスの思想