プラトンと哲人政治

プラトンの哲人政治とイデア|高校倫理2章③

このブログの目的は、倫理を身近なものにすることです。
今回は
高校倫理第2章
「人間としての自覚」
第1節「ギリシア思想
プラトン
を扱っていきます。
倫理は自分の生き方を学ぶ学問でもあります。
前回2章②「ソクラテスとソフィスト」をやりました。
>>ソクラテスとソフィスト
ソフィストが登場し、相対主義(真理なんてない)による弁論で一世をふうびしていく。
そんな中、あらわれたのがソクラテス。
そのソクラテスの弟子がプラトンです。
「西洋のすべての哲学は、プラトン哲学への脚注にすぎない」と哲学者ホワイトヘッド(1861-1947)が言ったのも有名
こども
哲学の元!?めちゃくちゃ気になる…
プラトンの思想を紹介していきます。
ブログの構成
  • プラトンの哲人政治
  • プラトンのイデア

プラトンの哲人政治

倫理学の祖はソクラテスと言われていますが、それを大々的に世に広めたのが弟子のプラトン。

ソクラテスは死をもって「知」への愛(哲学)を見せつけました。

それを本にして後世に語りつげるようにしたのがプラトンです。

ソクラテスの弁明

ソクラテスの裁判を描いた本がプラトン著作「ソクラテスの弁明」。

当時は民主制で、裁判によってソクラテスの死刑が決まってしまいました。

市民の力が強かったのです。

しかし、当時の裁判の内容はと言えば、ズタズタ。

ギリシアの民主制による市民の圧倒的な力は、情緒や嫉妬やその時々の気分に左右される不安定なものでした。

理性で無罪を勝ち取る!
えっ、生意気だから死刑!?…

ソクラテスは情にうったえるようなことは一切しませんでした。

妻や子どものことなど、同情を誘うようなことはわざと言わなかったのです。

判決後に述べて有罪にした人の心情をかきたてるんだけどね

ソクラテスの弟子プラトンは当初、政治家を志していたのですがこの裁判で気が変わります。

この民主制自体を変えていかなければいけないと考えました。

プラトンの哲人政治

哲学者たちが国々で王になるか、あるいは、いま王とよばれ、為政者とよばれている人々が真実かつ十分に哲学するのでないかぎり、
ー国にとっても、そして人類にとっても、禍いが止むことはない。
プラトン「国家」

プラトンの哲人政治思想を見ていきましょう。

プラトンは魂(プシュケー、真の自分)を3つにわけます。

「理性、気概(きがい)、欲望」

そして、それら3つは四元徳(知恵・勇気・節制・正義)に関係すると説きました。

四元徳

  • 理性⇒知恵
  • 気概⇒勇気
  • 欲望⇒節制
  • 理性が気概と欲望を統御して秩序を保つ⇒正義

魂を基準とした構成を政治体制にあてはめます。

国家の三階級は統治者・防衛者・生産者というようなピラミッド構造です。

国家の三階級

  • 知恵の徳を発揮⇒統治者
  • 勇気の徳を発揮⇒防衛者
  • 節制の徳を発揮⇒生産者

例えば、一つの魂は3つの気質「理性、気概、欲望」をそれぞれ持っているけれど、理性気質が多い人だと「知恵の徳」を発揮しやすいから統治者に向いている、と考えます。

もし欲望気質の人が統治者になったとしたら国に地位や権力やお金を求めるし、気概気質の人が統治者になったとしたら国を強くすることを求めるという考えです。

国家全体の秩序と調和が保たれるとき、正義の支配する理想国家が実現すると考えました。

こども
理想国家(ユートピア)のために農民は節制!
秩序がとれない人は処刑
ディストピア…
プラトンが構想した理想国家は貴族制に分類されます。
それでも、今の民主制と貴族制という区切りとは別のものではあります。
当時、民主制を批判する人々は処刑されていました。
プラトンも「このような哲人政治思想を語ると、ソクラテスのように処刑されてしまう」と思ったのかもしれません。
プラトンの本のここの部分って不敬罪なんじゃないの?
それは本の登場人物の言葉だから!
(プラトンは一人称では自説を語らなかった)
政治家をあきらめたプラトンはアカデメイアという学園(大学)を創設。(アカデミーの語源)
本が登場したばかりの時代において、知識人を増やそうとしました。
プラトンの著書は大学で大切に保管され、ほとんどが今に伝わっています。
「西洋のすべての哲学は、プラトン哲学への脚注にすぎない」
この意味の一つは、プラトンの文献の多さからもうかがえます。
こども
僕って天才!
何か残しておかないと伝わりにくいよ

左翼思想と現代(教科書外)

プラトンの民主制批判は現代の政治問題にも応用できます。

例えば、「資本主義⇒社会主義」といったベクトルに左翼思想が見られるからです。

左翼(急進的に世の中を変えようと考える人たちの特徴)は、まず何よりも理性を重視する姿勢があると言われています。

人間が理性で社会を人工的に改造すれば、理想的な社会に近づくと信じているのです。

プラトンは理性をピラミッドの頂点においた
プラトンは民主制の弱点である愚衆政治をなげいていました。
とても尊敬していた師ソクラテスが国家によって殺されたからです。
人を恨まずに、体制をなげいたんだね
それはいまの民主主義を考えていくことにも役立ちます。
>>民主主義とは何か、なぜ今取り上げられるのか

プラトンのイデア

先にプラトンの哲人政治を扱いましたが、プラトンと言えばイデアです。

イデアがどれくらい凄いのか。

例えば、現代の哲学といえばカント(1724-1804)。

現代哲学はカントから学べばよいと言われるほどの偉人ですが、カントの「物自体」という思想はイデアのことを言っている、と哲学者ショーペンハウアーは述べています。

さらに、自分の語る「意志」もイデアに近いとも。
>>ショーペンハウアーのイデアとプラトンのイデア

イデアの考え方ってどんな論にも出てきやすい!

まずはざっくりとイデアについて学んでみましょう。

ざっくりと学ぶイデア

プラトンはイデア論とよばれる独自の考え方にもとづいて理想主義的な哲学を展開しました。

ソフィスト(相対主義「真実なんてない」)に反対する形でイデア論を登場させてみます。

一般的に言われているイデア論をよく理解したい方はこちらを参照にしてください。
教科書にある洞窟の比喩を説明しています。
>>プラトンのイデア論をわかりやすく

ざっくりとイデア論を使った弁論をしてみます。

イデア論者「このお湯は熱い」

相対主義者「あなたにそう感じるだけであって、私にはぬるいかもしれない」

イデア論者「これに手を入れるとみんなが火傷します。火傷するお湯は人間にとって熱いと言うことになりませんか」

自分だけの主観があるだけだとしたら、「熱い」と言う共通理解があることが説明できないのです。

ソフィストの相対主義はただ「絶対的な真理」なんてない、と述べるのですが、そうなるとなぜみんなが共通して「熱い」と言えるのかという説明ができません。

ここでは手を通じた感覚(熱さ)ではなく思考能力としての理性(一定温度で火傷するによってとらえられるとして、そのような普遍的なものをイデアとよびました。

プラトンは永遠不変の実在というイデアがあると述べたのです。

彼はイデアの世界にはその頂点に善のイデアがあって、それが他のイデアを統一し、秩序づけているとしました。

1+1は5!
だって、一匹のネズミの雄雌同士をケージに入れておいたら5匹になったもん!
チョコ2個あげるから5個ちょうだい
>>対象領域とは
(プラトンは人工物にはイデアがないと述べていました。
もっと詳しくイデアについて考えてみる
>>人工物と自然物の違い)

イデア論とエロス

プラトンはソクラテスの「知」への愛(哲学)を言語化します。

彼はイデア界と現象界が実際にあると考えていました。

プラトンの二世界説(二元論)

  • イデア界⇒イデアが存在する世界
  • 現象界⇒私たちが住んでいるこの世界

プラトンによれば、私たちのはこの世に生まれる前はイデア界にいました。

魂はイデア界でもろもろのイデアを明瞭にとらえたことがあるのです。

しかし、魂はこの世に生まれる(現象界に移行)することによって肉体という牢獄に閉じ込められ、イデアの記憶があいまいになってしまったと述べます。

魂は生まれる前にはイデアをとらえていたので、自分に足りない部分を追い求めようとします。

イデアに憧れてそれを捕らえようとする哲学的衝動をエロースと述べたのです。

知を愛し求めるから、哲学!

私たちが正しさや完全さ、愛や正義を理解できるのはイデアを思い出す(想起する)から。

ソクラテスの「無知の知」(不知の自覚)が、自分の中にある知を引き出して自覚させるという形式(助産術)なのも、イデアによって説明できるのです。

想起説アナムネーシス)⇒人は生まれる前にとらえたイデアを思い出すことが出来る
美しい…
この世の美しい人を見て、美のイデアを想起することがもっともエロースに当てはまるみたい
>>ショーペンハウアーにおける愛とプラトンの愛
またイデアを現代とつなげる思想としては、AIにイデアはないといわれています。
AIは完璧さとか、完璧な美とか、人間が想起できるものをイメージすることが難しいと言われているのです。
人間と機械を分けて考えるときにも、イデアの思想は役立ちます。
今回はプラトンの思想を扱ってきました。
次はプラトンの弟子アリストテレスの思想をやっていきます。
>>アリストテレスの思想
参考文献
「反・民主主義論」(佐伯啓思)、「真説 日本左翼史」(池上彰、佐藤優)、「哲学と宗教全史」(出口治明)、「新しく学ぶ西洋哲学史 2022」、「哲学用語図鑑」
ギリシア思想
①自然科学とソフィスト
②ソクラテスとソフィスト
③プラトンの哲人政治とイデア(今回)
④アリストテレスの思想
プラトンと哲人政治
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