第2節「環境の倫理」
1.地球環境問題はほんとうに問題なのか?
- オゾン層の破壊
- 地球温暖化
- 酸性雨
- 砂漠化
- 熱帯林の減少
- 野生生物種の絶滅
などが問題に上がっています。
この問題に対して、国際的な取り組みが始まったのは1970年代です。
国際的な取り組み
- 1972年国連人間環境会議⇒「かけがえのない地球」をテーマに環境問題が人類共通の課題であることが示された。
- その後、「持続可能な発展」という理念が提唱
- 1992年国連環境開発会議(地球サミット)⇒リオ宣言や環境変動枠組条約が採択。
- 1997年気候変動枠組条約第3回締約会議(COP3、地球温暖化防止京都会議)が日本で開催され、京都議定書が採択。
- 2015年気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、2020年以降に実施される温暖化対策の枠組み(パリ協定)が合意された。
アメリカでは1970年代に環境倫理(学)がうまれました。
環境倫理の3つの主張
- 自然の生存権⇒人間だけでなく、他の種、生態系、景観などにも生存の権利があり、それを尊重する
- 世代間倫理の問題⇒わたしたちは未来世代の人々に対して責任や義務がある
- 地球全体主義⇒地球の生態系は有限であり、有限な全体の視点から個々のあり方を決めなければならない
- 生態系の破壊
- 地球温暖化
地球環境問題と生態系の破壊
レイチェル・カーソンが『沈黙の春』で警告したのは、DDT(有機塩素系殺虫剤の成分)などに対してです。
おびただしい合成物質(農薬)が生態系を壊し、生命あるものが沈黙してしまったことを寓話にしました。
しかし、もともとDDTは人類の感染症に対して役立ってきた物質でした。
DDTの活躍した歴史
- 1874年時点でDDTは合成されていたが、殺虫の特性は発見されていなかった。
- DDTは効き目の強い殺虫剤であることが確認され(ヘルマン・ミュラー)、1939年(大二次世界大戦中)から殺虫剤として使用が広まる。
- 戦争下の不衛生による疫病にもDDTの高い殺虫活性が役立つ。
- 日本でもDDTはしらみ撲滅に使用。
- 実際に昆虫を原因とする感染症の撲滅に役立った(ミュラーはこれによりノーベル賞を受賞)。
- 感染症だけでなく、食糧増産にも役立った。
DDTは安価で殺虫力が強く、積極的に使われました。
使用開始から30年の間で全世界で300万トン以上散布されたのです。
この弊害を発見したのがレイチェル・カーソンでした。
DDT廃止へ
- DDTなどの有機塩素系殺虫剤は長期にわたって環境中に残る。
- 脂溶性の安定した物質で、動物の脂肪に蓄積されて、食物連鎖によって徐々に濃縮される。
- 濃縮された成分が動物たちの大量死を引き起こした。
- アメリカでは『沈黙の春』以後、それらの殺虫剤は禁止されたり、制限されたりするようになった。
- 1980年代までには先進国では使用が禁止された。
人類の歴史上、マラリアを媒介するハマダラカを駆除したDDTほど人命を救った物質はないと言えます。
ちなみに、そのときのDDT排斥運動によって「先進国で10人から30人ぐらいの人が薬害に苦しまないようになり」、「発展途上国で3000万人から8000万人がマラリアで命を落とした」という二つのことがおこったそうです。(「今、心配されている環境問題は、実は心配いらないという本当の話」p193)
カーソンがDDTなどの大量使用に警告を行った理由の一つは「農薬などのマラリア予防以外の目的の利用を禁止することにより、ハマダラカがDDTに対する耐性を持つのを遅らせるべきである」というものだった。(世界史は化学でできているp338)
その後、DDTに耐え抜いたハマダラカはDDTへの耐性をつけてしまいました。
今でも食物連鎖に気を付けたやり方で、感染症を防ぐためにDDTは使われているようです。
環境問題の裏には、その時の危機を乗り越えようとする人類の活動が見えてきます。
それでも、少し疑問に思うかもしれません。
昆虫や蚊だけが被害を受けているだけならば、人類には無害なのではないか?と。
次に、昆虫や蚊がいなくなったことによる失敗の世界史を紹介します。
毛沢東の駆除問題
毛沢東(1893-1976、初代中華人民共和国国家主席)はコレラやペスト、マラリアなどの感染症が国にはびこっていたので公衆衛生の政策をとりました。
1958年四害駆除運動です。
マラリアを広める蚊、ペストを広めるドブネズミ、不衛生に感じたハエ、穀物を食べてしまうスズメ。
これら4生物を徹底的に駆除するように、国民に伝えたのです。
四害駆除運動は成功しました。
けれど、すぐにある被害が訪れます。
イナゴが大量発生したのです。
駆除した一億羽のスズメはイナゴを食べていたので、1957年から1962年の中国の大飢饉の原因の一つになりました。
オゾン層の破壊
人類は冷蔵庫にあこがれを抱いていました。
そんな中、1928年にトマス・ミジリ―のチームがフロンを開発します。
フロンは「冷媒」としてとても便利な化合物でした。
不燃性で毒性はなく、製造コストも低く、臭いもしない。
電気冷蔵庫の理想的な冷媒として開発されたフロンは、先進国に爆発的に普及していきました。
フロンもまたDDTと同じように「夢の物質」だと紹介されていたのです。
ところが、1980年頃にフロンがオゾン層(太陽光にふくまれている有害な紫外線を吸収する)に影響を与えていることが判明しました。
オゾン層が破壊されると、紫外線が多くなる。
紫外線は動植物の生育を妨げたり、人体のDNAを傷つける、と考えられています。
オゾン層ができたことで生物は陸へと進出できたので、オゾン層を壊すわけにはいかない。
フロンの代わりとして、人類は「代替フロン」を考え出しました。
代替フロンはオゾン層を破壊する性質は弱いけれど、温室効果が大きい物質だということが後に判明します。
そして、その代替フロンのまた代替品としても二酸化炭素は使われるようになっていきました。
二酸化炭素の問題の一つといえば、プラスチック問題。
プラスチックと環境
人類が人工的なプラスチックの合成に成功したのは20世紀になってからです。
始めのプラスチックは化学者レオ・べークランドによって「ベークライト」が開発されました。
ベークライトをきっかけに、現在ではポリエチレン・ポリプロピレン・ポリ塩化ビニル・ポリスチレンが4大プラスチックとして広く使われるようになります。
プラスチックも夢の物質でした。
硬く、熱や酸に強く、電流が流れにくく、安価、など。
ところが、問題はその丈夫さや強さでもありました。
プラスチックは自然分解する微生物が少なく、いつまでも残る。
処理場・埋立地不足を加速する元凶とも言われるようになりました。
例えば、人類は都合の良いものを大量に使う歴史があります。
産業革命では、羊が人を食う、というように毛織物業が盛んになり農民が土地を追われました。
次に、羊毛よりも綿花栽培が盛んになります。
そして、綿花よりも安価な合成繊維は、市場に出回りやすくなりました。
日本でも、大麻が繊維として活躍していた歴史がありますが、他に変わっていったのです。
二酸化炭素問題と言えば、地球温暖化問題です。
地球環境問題と温暖化
DDTによる生態系の変化、フロンによるオゾン層への影響、プラスチックのゴミ問題。
これらは数年経ってみないと地球への影響がわからない物質でした。
その時点での恩恵は大きいけれど、後々の問題になったからです。
産業革命から二酸化炭素の排出量が多くなり「地球に影響があるのではないか?」と人類は考え出しました。
二酸化炭素には温室効果があり、これによる地球への影響を調べたのです。
ここで登場したのが「第三の科学」とも言われる「地球科学」。
地球科学とは
地球科学の主な分野の一つはシミュレーションです。
シミュレーション地球科学では二つの地球を用意しました。
- 人間を自由に活動させる地球
- 石油や石炭を燃やさせない状況を保った地球
これによって、1980年代以降の気温上昇は、人間活動による二酸化炭素濃度上昇を抜きに説明するのは難しい、という結論がでてきました。
氷をコップの水につけるとパチパチという音がするけど、それは当時の空気。
その空気を年代別に調べていくことで温室効果気体の濃度データがとれる。
こうやってデータを取れば、人間活動が地球にどんな影響があるのかがわかってくる
地球温暖化と政治
地球温暖化問題が最初に本格的に取り上げられたのは、1992年地球サミットだと言われています。
オゾン層破壊があったり、原発事故などがあったりしたのに、なぜ地球温暖化なのか?
これに対して、時期的に冷戦が終結して、次の人類の新しい脅威として「地球温暖化問題」を取り上げたのではないか?とささやかれています。
科学は、一つに科学哲学での定義では、否定されうるのが科学です。
科学が政治に利用されることによる被害を心配する人々が出てきています。
例えば、日本では「2050年にCO2ゼロ」という極端な目標が掲げられました。
これにより不安定な再生エネルギーや、表向きはエコだとされる物がもてはやされるようになっています。
その科学検証が必要なものばかりが出てきているとも言える
- ダイオキシンは問題がないと科学的に示されてきたけれど、そのときに決められた分別の決まりは残っている。
- 太陽光発電は、その土地の太陽エネルギーを奪うので、下の土地の栄養がなくなる
- プラスチックを燃やさないことで、海にプラスチックが流れ込み、海の生態系が崩れていく
- 毒性が薄いとわかった大麻でも、法律はそのまま
- 新しいテクノロジーの部品が紛争の原因
- 二酸化炭素に変わる新しいテクノロジーによる環境破壊の不安
- リサイクルが二酸化炭素を増やす事例もある
- 異常気象をなんでも二酸化炭素と結びつけて経済に影響を及ぼす
これらを見ていくと、いっそう問題なのは化学環境汚染なのではないか?という視点が見えてきます。
特に今ではSDGs(Sustainable Development Goals)の略称で「持続可能な開発目標」が掲げられていて、地球温暖化問題はその一つです。
まとめ
地球環境問題はほんとうに問題なのか?
答えとしては、そのときの人類の環境にとっては問題解決になっていたけれど、「後に問題になった」と言えます。
この問題を解決しようと、地球環境問題への取り組みとして国際的な取り組みが始まっています。
次回は「SDGs」をテーマに地球環境問題を考察していきます。